「ねえねえ、愛って一体どんなものだと思う?」
「どんなものって…愛は愛でしょう。人が人に好意を持つ際に使われる言葉。異性をしたう心の名称」
「違う違う、俺が聞いてるのはその言葉の意味じゃなくて中身だよ」
「言葉の中身?」
「そう、」

少しだけ、いやかなり驚いた。まさかこの男の口から"愛"なんて言葉が飛び出してくるなんて。いやそれよりも驚いたのはその先に続いた言葉だ。

「神威は愛を知りたいの?」
「うーん、興味はある」
「それはまたどうして」
「だって理解ができないから」
「ああ、それならきっとわたしがあんたに何時間と説明したところであんたが理解できることはないと思うよ」
「そう」
「うん。残念だけど」
「じゃあ伊織はちゃんと理解してるんだ?」
「そうだなあ、」
「そこ悩むとこなの?」

けらけらと笑う、神威。
わたしもつられて苦笑い。

「わたしは無くしちゃったたちだから」
「むかしは愛されてたの?」
「はは、そう思いたい。でもわたしは確かに愛してたひとがいたよ」
「へえ、初耳だね」
「はじめて聞かれたもの」
「で、どんなものだったの?」
「だからいくら神威に説明したって時間の無駄になるだけだってば」
「いいじゃん気になるんだから」
「…ほんと、今日はめずらしい」

「わたしの愛してたひとはとっても強いひとだったよ」
「えっ、俺も会いたい」
「ばか。もう居ないの」
「なーんだ。死んだの」
「さあどうでしょう」
「は?」
「とにかくね、そのひとの隣にいるだけて心が喜んでたのを覚えてる」
「それはおれが強い奴見つけたときと同じようなものなのかな」
「あんたのは狂気じみててとてもじゃないけど同じじゃない。てゆうか同じだと思いたくないわたしが」
「ちぇ」

そう言うと同時にそれまで隣に座っていた神威はぴょんと床の上におりた。
どこかに行ってしまうようだ。

「ちょっと、もう飽きたの?」
「んー、もういいや」
「やっぱり時間の無駄…」
「失礼だなあ。愛ってやつがどんなものかはもうちゃんと分かったよ」
「…え、それほんと?」
「それはいっつも無表情のアンタをそんなふうに笑わせちゃうようなもんなんだろ」


ひとことそう言うとにっこりと笑みを見せた神威。きっとその青い瞳にはわたしの馬鹿っつらが映っているんだろう。


「ご説明ありがと。やっぱり理解はできなかったけど、それがどうゆうものかは分かったよ」
「…そりゃ、よかったわ」
「でも残念だ。もう無くしちゃったんだろ?それ」
「そうだね、奪われちゃったから」
「ふうん、じゃあ取り返す?」
「あはは…、それは無理かなあ。もう手の届かないとこにいるから」
「……ねえ、そいつって誰なの?死んでるの?死んでないの?」
「もしかしたら神威はもう会ってるかもしれないひとだよ」
「えっほんと」
「うん。会ってないかもしれないけど」
「なにそれさっきからなんかいらいらするんだけど、殺しちゃうぞ」
「にこにこしながら可愛く言っても全然可愛くないからねそれ」


そう言ってやると神威はしっかりと目を開いて口元でゆるく弧を描いた。
そんなふうに笑った彼を見たのは久しぶりだなあと、頭の片隅でおもう。


「やっぱり神威、今日はへんだね。なにかあったの?」
「んん、べつに」
「そう」

「あ、そうだ」
「なに?」
「きみが愛してたってひとに会ってみたくなった」
「……だから、」
「無理とか届かないとかそんなの知らないしどうでもいいから」
「はい?」
「会いたくなったって、それだけ」
「…あーそーですか。どうぞご勝手に」
「おれ優しいからさ、もし会えたら言っといてあげるよ」
「なにを?」


滲んだ愛模様


どこもかしこも滲んでて、うまく読み取ることのできない説明書。
断片的に紡がれる愛のメッセージ。

だれかのなにかが滲ませた。


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