除夜の鐘が鳴り響く夜。部屋のこたつに突っ伏しながら何をするでもなくぼうっと時が過ぎるのを待っているのは銀時だった。それと同じく暇そうにして彼の前に座っている伊織はぽつりと呟く。


「今年ももう終わっちゃうね」
「おー…、今年も早かったなー」
「ほんとにね。…神楽ちゃんたち今頃どうしてるかなあ」
「さあな。みんな仲良く紅白でも見てんじゃねえの?つーかお前はいいのかよ」
「何が?」
「お前も新八ん家行かなくていーの?」
「んー、行きたいけど…銀ちゃんがここに居るなら一緒に居るよ」
「…なんだよ、やけに素直だな」
「まあ今年最後だしね」


くすくすと微笑む伊織に慣れないのか、銀時は柄にもなく耳を赤くしてそっぽを向く。
それに気づいた伊織はにやりと悪戯な笑みを浮かべ、銀時の顔を覗き込んだ。


「何照れてんの銀ちゃん」
「てっ、照れてねえし!つーかなんで俺がお前に照れんだよ意味分かんねえ」


ますます顔を赤くしてまくし立てるようにそう言う彼は誰がどう見ても照れているようにしか見えない。そんな彼に対して笑みが深くなる一方の伊織。


「…焦ってる銀ちゃんってなんか新鮮。…面白ーい」
「だから何も焦ってねえっつの!それに面白くも何ともねえよ」
「ふうん?」


そう言いながらも銀時に顔を近づける伊織はやはり口元に笑みを携えたたまま。

すると急に何の前触れもなく銀時は真剣な顔つきになるものだから、突然のことに伊織が思わずきょとんとした表情を浮かべると、彼は唐突に口を開いた。


「…なあ、あんまからかってると本当に喰っちまうぞ」


その声色は真剣そのもので、今度は伊織のほうが一瞬で顔を真っ赤にする方だった。いつもの死んだ魚のような目でなく、熱の籠もった綺麗な瞳であんまりじいっと見つめられるものだから、彼女は息をするのも忘れそうになる。


「あ…、えと」
「はい問答無用でーす」
「え、…え?!」


返事をする間もなく立ち上がった銀時に抱き抱えられた伊織は驚きのあまり身を硬くする。思わず彼女が上を見上げると自分を見下ろす銀時の姿が瞳に映った。


「俺をからかった、お仕置きな」


そう呟いた銀時に伊織が目を見開く。そして彼の唇と彼女のそれが触れ合いかけた、次の瞬間。
万事屋の戸口ががらりと音を立てて開け放たれた。


「邪魔するぞ銀時ー」
「伊織は居るかのー?」
「…せめえ家だなおい」


それと同時に聞き慣れた三つの声が二人の耳に入る。まさかの事態に動きを止めた銀時と伊織はぎこちない動作で顔だけを玄関へと向けた。


「お、ちゃんと二人共居るじゃないか。…そんなところで何をしているのだ?新手のお姫様ごっこか?」
「伊織ー!久しぶりじゃのう!酒持って来たき一緒に飲みとおせ!」
「おいコラ酒持ってきたのは俺だろうが馬鹿もじゃ」


ずかずかと何の遠慮もなしに家の中へと踏み込んできた三人に、ぽかんと呆ける銀時と伊織。しかし先にはっとした銀時がすかさず口を開いた。


「…いやいやいや何でお前らここに居んの?高杉に至ってはもう色々意味分かんねえんだけど。何おまえ、腐った世界ぶっ壊すんじゃなかったの?」
「正月は休業しても問題あるめェ」
「いや問題大アリだろ。寧ろ問題しか残らねェだろ」
「つか銀時てめェ今すぐ伊織を下に降ろせ。お前らさっきから顔近えんだよ、なんかムカつく」
「百歩譲って辰馬はいいとして高杉とヅラは仮にもテロリストだろが!今すぐ帰れ!そして伊織は降ろしません!」
「金時ー、そんままじゃ伊織と酌み交わせんき降ろしてあげとおせ」
「銀ちゃん降ろして!」
「伊織さん?!」
「くく、ざまあみろ銀時」
「るっせーぞ馬鹿杉!」
「お、そろそろ十二時だぞ」


その声に伊織が振り向くといつの間にかテレビを付けていた桂が興奮した面もちであと三十秒だ、なんて言っている。


「あー…今年も早かったなー」
「それさっきも言ってたよ銀ちゃん」
「なあ伊織、来年からこんな胡散臭え万事屋なんか辞めて鬼兵隊に来ねえか?」
「何を言いゆう!伊織は快援隊に来るんじゃ!のう伊織?」
「いやいや今年こそ我らが攘夷党に…」
「てめえらあああ!何勝手に勧誘してやがんだ!伊織は俺たち万事屋ファミリーの一員なの!どこにもやりません!」
「ねえねえ、そんなことよりこのあとみんなで初詣行こうよ。それから久しぶりの再開を祝って朝まで飲も!」
「あっはっは!まっこと伊織は酒が好きじゃのう」
「もー、人を飲んだくれみたいに言うなし!私はただみんなと飲むのが好きなだけだよーだ」


そうしている内にブラウン管の中の人たちがカウントダウンを始めた。そんな中伊織の隣で銀時がぼそりと呟く。


「ちっ、あいつら来なかったら今ごろ伊織と二人仲良く布団の中で年越せたってのに…」
「何言ってんのさ。あの三人が来てくれて一番嬉しいの、銀ちゃんなくせに」
「んなわけあるか!」
「…来年もさ、」
「あ?」
「来年もみんなで笑ってたいね」
「………そうだな」


幸せそうににっこりと微笑む伊織の手を、周りには見えないように銀時の手が包み込んだ。
みんなが笑う、こんな日々がいつまでも続けばいいよね。


A HAPPY NEW YEAR !!


「酒えええヒック、もっと酒持って来おおおいヒック!」
「あっはっは!伊織のこの姿見るのもまっこと久しぶりじゃのー!」
「笑ってる場合か!誰かあいつを止めろぉお!って高杉てめ、どさくさに紛れて何伊織に触ってやがるぶっ殺すぞ!」
「るっせえな、こんなの触った内に入んねえよ。なァ伊織」
「ヒック、入んない入んない!」
「ほらな」
「伊織本人に聞くな!今のこいつにゃ日本語通じねえんだよ!」
「相変わらず…ヒック、きんちゃんとしんしゅけ、仲良しらねえ!」
「「ふざっけんな!」」


Let's enjoy it next year !!
2011/01/01 わらび



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