「ああああ、腹減って死ぬ…」
「言うな馬鹿者。意識すると余計に腹がすく」
「3日はまともなもん食ってねーんだぞ!もう無視できる程度の空腹感じゃねーんだよ!」
「それはみんな一緒だ」


銀時の喘ぐような声に続いて、至極冷静な桂の声が森の中でひびいた。
辺りは闇に包まれていて、時刻までは分からないが夜だということだけははっきりとしている。
背中合わせになって座り込む彼らふたりと高杉、坂本はその身にまとう陣羽織をすでに乾いた泥や返り血で汚したままそうやって四方の気配を探る。
が、もう随分のこと、敵の気配どころか生き物の気配すら感じられない。

その姿を見る限り遭難、と言って何の間違いもないだろう。


「……ヅラ、何かとってこい」
「ヅラじゃない桂だ。おまえが行け」
「糖分が欲しい、だれか糖分…」
「金時!こんな時こそ糖でできてる自分の腕でもかじっとけばいいぜお」
「その手があったか」
「おい銀時今のはまともに受け取るところではないぞ。お前はアンパ○マンか」
「…とうとう脳まで糖に犯されたか」
「おいコラ高杉聞こえてんぞ、文句言うならはっきり言えや」
「今日も残念な髪型だな」
「ぶっ殺されてえのか糞さらさらストレート野郎が!そもそもてめえさっきと言ってること違えだろうがァァァ!」
「やれるもんならやってみやが「頼むから喧嘩だけはしてくれるなよ。こっちまで気が滅入る」
「んなもんしるか!」
「こいつが悪い」
「あっはっは!まっことにおんしらはどがな状況でも変わりないのう」
「安心しろ、それに関してはお前に勝てる奴ァいねえよ。鈍感ばかもここまでくると尊敬するぜ」
「照れるろー」
「辰馬おまえ高杉の話最後まで聞いてた?」
「まったく…このままだと本当に銀時を食うはめになるぞ、俺はぜったいに嫌だからな」
「俺の方が嫌だわ、つーかなんで俺?」
「ヅラァ、銀時は止めとけ」
「高杉おまえ…!」
「体中糖に犯されてる上に脳みそからっぽだぞ。食えるとこねえよ」
「やっぱりてめえは死ね」


と、そのとたんに桂が吹き出した。なんだなんだ、とうとうおかしくなったかと訝しげな目で彼を見つめる銀時と高杉をおいて、辰馬もそれにつられるようにして笑い声をあげた。
ますます訳が分からないと彼らが向かい合った拍子、桂がようやく口を利いた。


「なんだ、いつもと変わらないのはべつに坂本だけじゃあないではないか」


その言葉を聞いて、はたと固まる両者。
ふいにそっぽを向いた銀時は、しばらくして嫌そうにぽつりと愚痴をこぼした。


「それは俺も馬鹿ってことか…」
「なにか間違ってるか?」
「…さあな、ただ辰馬と同じレベルってのは流石に納得いかねー」
「あっはっは、おまんわしに喧嘩売っちゅうじゃろう」
「死にぞこないはいつものことだ。
いいじゃないか。お前らからしてみれば、死ぬやもしれんという事実さえ笑って蹴飛ばせるのだろう」


まあ死ぬ気なんてさらさら無いけどな。


そんな三人の声が重なって、次の瞬間にはけらけらと笑いだした四人の声が夜の樹海に響いた。

状況は一向に最悪。
しかしそれはいつものことだと、わらう彼らにはしっかりと明日が見えているようだ。


地球が何回廻っても


きっとなにも変わらない。
彼らがただ彼ららしく、生きて、在り続けることができるのならばそれでいい。



企画サイト「喰う、き?」様に献上
すてきなお題を有り難うございました。

影踏み/わらび


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