「"たかすぎしんすけ"」
「……」
「ねえ"たかすぎしんすけ"ってば。あり?もしかして聞こえてないの?」
「……、止めろ」
「あーやっぱり聞こえてたんだ。無視しないでよね"たかすぎしんすけ"」
「その呼び方を止めろ。鬱陶しい」
「そう?じゃあバカス「そんなに叩っ斬られてえか餓鬼」
「じゃあ晋助」
「…、……なんだ」




「なに、あれ…」
「伊織?こんなところでこそこそと何をしているでござる」


伊織がぽつりと呟いた丁度その時、偶然傍を通りかかった万斉が彼女の発する殺気がかった気配に気づき声をかけた。

その声に振り返った伊織は眉間にぐっとしわを寄せ、至極悔しそうな表情をして高杉の方を指差す。もちろん死角になっているため、あちらからこちらの様子は見えていない。


「あれ見てくださいよ万斉先輩!あんの野郎よくも晋助様のことを呼び捨てに…。絶対許さん…!」
「……はあ、」
「私だってまだ呼び捨てになんかしたことないのに羨ましい…!」
「なんだそんなことでござるか…。それならばお主も呼びたいように呼べばよかろう」
「そんなこと?!万斉先輩は普段からそう呼んでるから気にならな……ってうあああ!晋助様いまちょっと笑っ…、笑ったあああ」
「…、耳が痛いでござる」
「えっ、ちょ何あれ意味わかんない。あの二人いつの間に仲良くなってたの!」
「仲が良い…のか?そうは見えんが…」
「仲良いよ!だってほら、晋助様が嫌みったらしく会話してないもん!」
「…お主は普段から晋助のことをどんなふうに思って…、ん?伊織?」


万斉がそう言い終わる頃には伊織はすでにそこから姿を消していた。
しかし探すまでもない、顔を上げた万斉の目には神威と高杉の間に立ちはだかっている彼女の姿が映る。

敵意をむき出しに神威を睨みつけているその姿は、さながら飼い主を野良猫に取られまいと威嚇する飼い猫のようだ。

その一方で神威はというと、それに対抗する素振りすら見せず、へらへらと楽しげに笑っている。


「………」
「何してんの?おチビさん」
「ちっ、チビ?!やっぱり失礼な奴ね!あんたみたいなのに私の晋助さ…私たちの晋助様は渡さないわ!」
「ねえ晋助、この子何の話してるの?」
「…知るか」
「また晋助って呼んだァアァ!」
「はいはい、君なんて名前?」
「誰があんたみたいな奴に教え「おい伊織」晋助様?!なんで言っちゃうんですか?!」
「こいつの相手は任せた」
「あ、はーい。…って、ええ?!ぜったい嫌ですよこんな奴の相手なんて!」
「わりぃが俺ァ餓鬼の世話なんざご免なんでな」
「行かないで下さい晋助様ァァア!」


彼女が高杉を呼び止めようと伸ばした手は虚しくも空をつかみ、あっという間に彼はそこから姿を消した。
あとに残るはがっくりと肩を落とす伊織とやはり笑みを絶やさない神威の二人だけ。


「…ねえ伊織」
「………なによ」
「伊織はどーしてさっきから俺に向かって殺気飛ばしてんの?そんなに殺り合いたいわけ?」
「あんたがその気なら乗ってやってもいいけど!」
「へえ…、面白いね。でも止めとくよ」
「よし来い!返り討ちにして……え?」


拳を固めて神威を睨みつけている伊織に対して、神威は目を細めたまま飄々とそう言ってのけると、いつの間に移動したのか、伊織の目の前に立って彼女を見下ろしていた。
それに驚いた伊織は後退ろうとするが、神威に掴まれた腕によってそれは叶わない。


「ちょ、離せ変態!しっ、晋助さまァァァ…もがっ」
「うーん、君ちょっと煩いからさ。静かにしてくれる?」
「もががっ、もが!」
「俺、女と子供は殺さない主義なんだ。見たところ伊織って地球人にしては強そうだし、何より威勢がいい」
「…ぶっは!そんなん知るか!今すぐ離せっ、晋助さまァァァ」
「さっきから晋助晋助って、君そんなに晋助のこと好きなの?」
「えっ…」
「わ、林檎みたいだ」
「ううううるっさい!それと晋助さまのことはすすす、好きとかそんなんじゃなくて憧れなの!」
「うとす多くない?」


神威のその一言に返す言葉もない伊織は代わりとばかりにじとりと彼を睨みつけた。
しかしそんなことに彼が気を止めるわけもなく、やはりケラケラと馬鹿にするように笑うだけ。細められた眼から僅かに覗く青色が、この瞬間はじめて伊織の表情を映した。


「君、やっぱ面白いよ。睨みつけてきたかと思ったら騒ぎ出したり真っ赤になったりまた睨みつけてきたり、…変な奴」
「いっつもにやにや笑ってるあんたに変人呼ばわりされたくないし」
「心外だなあ、それに晋助だってよくにやにやしてるじゃん」
「晋助さまはいつもはクールなの。だからたまーにそんなふうに笑ってるのがかっこいいんだよ!」
「ふうん、俺にはよく分かんないや。てか分かりたくもないけど」
「んだとコルァ!神威のくせにィィ!」
「あっはっは、君の拳が俺に届くわけないだろ?」
「るっさい戦闘馬鹿!」
「それってほめ言葉?」
「その減らず口黙らせてやる!」




「あれ、万斉先輩何してるんスか」
「ん?ああ、また子殿でござるか」
「悪かったっスね私で。…あれって伊織…と夜兎の餓鬼じゃないっスか!なんであの二人が一緒に?」
「さあ?」
「……なんか仲良さそうっスねー」
「お主もそう思うでござるか」
「まるで兄妹喧嘩してるみたいっス」


二人の視線の先にはがむしゃらに拳や蹴りを繰り出す伊織と、それを受け流しているだけの神威の姿があった。それはまさに彼女らの言うとおり、暴れる妹とその相手をしている兄のようで。

もちろん、後ほど戻ってきた伊織にまた子がそのことを言うやいなや、彼女の怒号じみた否定の声が上がったのは言うまでもない。

背中合わせの法則


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先日一歳のお誕生日を迎えられたお友達サイトの妄想さんに恐れ多くもお祝い文として書かせていただきました。
麗さんいつもお世話になってます。そして改めましておめでとうございます!


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