見慣れたマンション。見慣れたエレベーター。見慣れた廊下を迷うことなくまっすぐに進めば、そこにはまたもや見慣れた部屋のドアがある。
遠慮のかけらも無しにがんがんとそこにノックをすれば暫くの間のあと、ゆっくりと開かれたドアから姿を表したのは熱っぽい表情をした名前だった。


「あれ…、晋助?」
「…てめえ何してやがる」
「何って…せっかく寝てたのにたった今あんたに叩き起こされた所ですけど」
「そうじゃねえ。なんで学校さぼりやがったんだって聞いてんだよ」
「へ?さ、さぼりじゃないよ?風邪引いて行けなかったの」
「風邪?じゃあてめー何で俺に連絡よこさなかったんだよ」
「だって晋助携帯見ないでしょ。だから銀ちゃんと小太郎と辰っちゃんに晋助にそう伝えてってちゃんとメールしといたんだけど…」
「聞いてねえ」
「…あー…、まじでか」
「……てめえ、」
「っくしゅん!ちょ、ごめ、晋助。今日はもう寝るから帰って…」
「は?」
「ごめんね本当、わざわざ来てくれてありがとー。銀ちゃんたちにはちゃんと言っとくから…じゃあまた」
「は?」


ばたん、立ちすくむ俺を置き去りに名前の姿は扉の向こうに消えた。
つーかふざけんな!この俺が心配し…興味本位で来てやったっつーのにこのまま帰れってか?冗談じゃねえ!あんな軽い謝罪ひとつじゃ事足りねーぞ。
それよりも先に銀時たちをシバき倒したいという気持ちもあるが、とりあえず今は目の前のことからだ。

ものの数秒でそう思い至った俺は閉ざされたばかりの扉を思い切り開け放った。

「てめえふざけ…、んな。…って何してやがるお前」
「……ふほーしゅんにゅうはんたい」
「…馬鹿か。おら立て、ベッド行くぞ」

予想外だ。
もう一言、二言文句を言ってやろうかと思って部屋に上がり込んだというのに玄関のすぐそばで座り込んでいる名前を見た瞬間、なんか頭ん中から文句とか不満とか…そういうの全部吹っ飛んじまった。
死んでも表にゃ出さねーが、どうやら今俺は柄にも無く混乱しているらしい。…いや意味分かんねえし。俺が混乱?名前相手に?そんなん有り得ねえ。

「うえ…、頭痛い…」
「だから早く寝ろって、」
「あれ?晋助なんでここに…」
「…てめえ意識もうろうとしてんじゃねえか、医者にゃ診せたんだろうな?」
「…………」
「……ったく面倒くせえ…」

とりあえず立てねえみたいだから名前をベッドまで運んでやる。体抱えた瞬間あんまり簡単に持ち上がったもんだから少し驚いた。ちゃんと食ってんのかこいつ?つーかなんでこんなことしてんだ俺。

そうやって自分の訳の分からない行動に疑問を持ちながらも名前をベッドに寝かしてやれば、もぞもぞと動いて毛布にくるまる目の前のそいつ。いっつもこんだけ大人しけりゃいーんだけどな。

「…しんすけ」
「あ?」
「………ありがとう」

……こいつ本当に名前か?
こんなしおらしい顔できんなら普段からそうしてろっつの。
てかさっきから腹の下あたりがずくずくする。なんだこれは。

「…お前んち何かねえの」
「なんかって…?」
「だから、冷えピタとか薬とか何でもいいから何かねえの」
「えー…、分かんない」
「何だそりゃあ」

ったく何で俺が彼女でもねえ女にここまでしてやらなきゃならねーんだ。…いや彼女相手でもしねえけど。
ただこんな弱ってるこいつ見るの初めてだからちょっとびびっただけだ。ただそれだけ。…だよな。

「…意味分かんねーし、」

なんかもう面倒くせえからとりあえず色々考えるのはやめて棚をいじくるのに専念する。
そしたら棚の引き出しの奥の方に未開封の風邪薬があった。
…こいつ本当に風邪治す気あんのか。

とりあえず水を汲んで薬と一緒に持って行ってやる。ベッドに戻るとぼんやりと天井を見つめていた名前が徐にこっちを向いた。

「…なに、それ」
「薬。早く飲め」
「…いい、起き上がるの、めんどい」

薬も飲めねえなんてガキかこいつは。
つーかそんなんじゃ良くなるもん良くならねえだろ。けど目の前の名前が本当にしんどそうに目を瞑っているもんだからそんな小言すら言う気にならない。

あー…こうなったらもうあれこれ考えるのは止めだ!さっきからぜんっぜん俺らしくねえ。だいたい優しく看病なんて俺ができるわけねぇだろ!もういい、俺は俺のしたいようにする。そもそも風邪なんて引きやがったてめえがわりぃんだ。だから、

「今から何してもあとで文句言うんじゃねえぞ馬鹿」
「え…、っん」

名前が言葉を理解するよりも早く、俺はすばやくそいつの口の中に錠剤を放り込むと、次に自分の口に水を含み、すぐさま名前に口づけた。
当然驚いたのだろう、名前は一瞬目を見開いたが、そのまま素直にごくりと喉を上下させるのが見えて俺は口を離した。

「…し、しんすけ。今…」
「………」
「もしかしてチュー「帰る!」

なんか後ろから声が聞こえっけど何も耳に入らねえ。全速力で玄関を出るとそのまますぐにずるずるとしゃがみこんだ。

キスなんて初めてでも何でもねえのに、なんだ、これ。めちゃくちゃ顔があちい。まさか風邪移っちまったのかこれ?

「…ちくしょ、ムカつく」

名前にぎゃふんと言わせたかったっつーのに何だこの様は!俺らしくねぇ、こりゃもしかして風邪よりたちのわりぃ病気か何かなんじゃねえのか。

そんなことを思いながら名前の顔を思い浮かべたら腹の下あたりのずくずくが一段と酷くなった。


現在体温上昇中につき

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これは溺愛…なのか…?
Thanks.瑠那さま、真梨愛さま


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