「あー、かったりい」

銀時の口からため息と共に吐き出されたその言葉は騒がしい教室の中ですぐさま掻き消された。
しかし隣に座っていた名前にはきちんと届いたようで、彼女は苦笑まじりに笑う。

「まだ一限目が終わったばっかりでしょーが。少しは頑張りなさい」
「無理、もー無理。俺の体拒絶反応示してきてるもん、糖分採らなきゃ駄目だわこれ。つーことだから俺次の時間ふけるね」
「それは拒絶反応じゃなくてただのあんたの性質でしょうが!つーかちょい待ち、あんたまた放課後補習受けたいわけ?」
「だってよお、高杉は一限からもう居ねえし、辰馬は寝てばっかだしつまんねーもん」
「ヅラが居るじゃんか」
「それはにやにやしながらえんぴつ転がして遊んでるあいつのことか?」
「……ごめん何でもない」

銀時の指差す方にはえんぴつを転がして遊んでいる桂の姿があった。どうやらえんぴつの柄が占いになっているらしい。
いや、てゆうかどこの小学生だ。

思わず深いため息をついてしまった名前が横に視線をずらしてみるとぐっすりと眠る坂本が視界に入った。
何とも幸せそうな寝顔を浮かべる坂本に何やら銀時がらくがきを始めたが、名前はもうつっこむことすら面倒くさいのか頬杖をついてそれを見守っている。

「……できた!」
「何ができ…ぶふっ」
「俺の自信作だ」

誇らしげにそう言ってペンを指で遊ばせている銀時のそばですやすやと眠るのは、ぎっちりと顔に落書きをほどこされた辰馬だった。
…なんて言うか、もう肌色のスペースがほとんど無い。

「…あのまま放っておくのはあまりにもいたたまれないんですが」
「気にすんな。相手は辰馬だ」
「いや意味分かんないし。つーか辰っちゃんならいいのかよ」
「へいへいお静かにー」

このままでは拉致が開かないと思ったのか、適当に流す銀時に名前はふくれっ面を見せる。
そうこうしている内に休み時間は残り一分となっていた。

「げっ、もう次の授業始まっちまうじゃん」
「もう観念して授業受けなさい」
「じゃあなー名前」

そう言うと同時にひらりと手を降って教室を後にしようとする銀時の腕を名前は思わずがしりと掴んだ。

「待て馬鹿銀!」
「離せええぇえ」
「離すかあぁあ」
「なんっでそこまで俺に授業受けさせてーんだよてめーは!」
「だってこの時間さぼったら今日もまた放課後に補習じゃんか!」
「いーんだよ!俺にとっちゃそっちのがずっと楽なんだからよ!」
「〜っ、あんたはそれで良くても私は全然良くないの!」
「はあ?!」
「だからっ、あんたが放課後に補習受けてたら一緒に帰れないでしょーが!」
「…は、」
「………あ」

途端に双方の動きが止まる。
驚きに目をぱちぱちと瞬かせる銀時とは裏腹に、名前はしまったとばかりに顔を引きつらせた。

「え、なに、それってつまり」
「……なんでもない」
「寂しかったの?」
「っ、!」

遂に顔を真っ赤にした名前は突然立ち上がり、銀時をきっと睨みつけて叫ぶようにして言った。

「るっさい!銀時の鈍感ばか!」

そして彼女が逃げるように教室を出て行ったと同時に授業開始を伝えるチャイムが鳴る。
ぽかんと教室の出口を見つめる銀時は暫くしてからくつりと笑った。

「まったく怖くねえ…、つうか」

おめえがさぼってどうすんだよ。

そう胸中で呟いた銀時は徐に立ち上がるとがらりと教室の戸を開けた。
そして彼はどこにいるかも分からない少女を探すため、口元には笑みを浮かべたまま、廊下に足を踏み出すのだ。

二限目、鬼ごっこ

まあこれで放課後も一緒だな。ばか。

Thanks.志貴さま


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