今年もあと数時間で終わりを迎える。
私には毎年初詣で行くという習慣は無かったのだが、今年は違った。
それもこれも銀時が寺で配る甘酒がどうしても飲みたいと言い出したからだ。
寒いから外に出たくないと突っぱねる私を無理やり外まで引っ張り出したのは何を隠そう、今隣で上機嫌な様子で歩いている坂田銀時である。

「うう、やっぱり寒い…」
「歩いてりゃあったかくなるだろ」
「やだ、帰る」
「ちょっと名前さん、まだ家出てから二分も経ってないんですけど!」
「…それに絶対人多いって。初詣なんて年あけてからのんびり昼間に行けばいいじゃんか」
「ったくお前駄目だわ何も分かってないわ。いいか?初詣ってのは人混みの激しい夜だから何か楽しいんだよ。キャンプファイヤーみたいなのがあったり、知り合いと出くわしたり」
「なるほど。よし、帰ろうか」
「お前人の話聞いてた?」

隣で銀時が何か文句言ってるけどきっぱり無視してやる。
あーあ、私の予定では今ごろ家でのんびり紅白でも見ていたはずなのにな。

…でも最近こいつが隣に居ないと不思議と何をしても楽しくないって思ってしまうのが本当のところ。
悔しいから、言ってやんないけど。

「お、やっぱすげえ人だかりだな」

その声に釣られて顔を上げてみるとたしかに銀時の言ったとおり、まだ寺に入ってもいないというのにも関わらず、いつの間にか辺りには人の声が溢れていた。

「うげ…やだなあ」
「これも甘酒のためだ我慢しろ」
「あんた絶対甘酒目当てでしょ。さっき何か色々言ってたけど結局それだけが楽しみなんでしょ」

…何か釈然としないなあ。
銀時の目は甘味を楽しみにしてるからかきらきらして見えるし、これってもしかして私とじゃなくても良かったんじゃないか?
そう思うと何だか本当に人だかりに飛び込む元気が無くなってきて思わずため息が零れる。

そんな私の目に映ったのは、ほらと言って差し出された銀時の手だ。

「?」
「…だから、手」
「手?」
「……、はぐれたら困るだろ」

かったるそうな表情を顔に貼り付けて、耳は真っ赤。
それが寒さからなのか、それとも別の何かからなのかは分からないのだけど、たったそれだけでさっきまでの私の杞憂は一瞬にして消え去ったらしい。

ああ、悔しいなあ。

「うおっ、お前手え冷た!」
「銀ちゃんが暖かいんだよー」
「そうかァー?」
「くれぐれも迷子にはならないでね」
「こっちの台詞だっつーの」

何だか今年はあったかいお正月になりそうです。

***

「おお!わたし大吉!」
「えー、俺中吉。なんか悔しいからもっかい引いてい?」
「あんたはどこの子供だ!…って、あれもしかして晋助じゃない?」
「お、本当じゃん。あいつ一人で何やってんだ?」
「……さっきからおみくじ何回も引いてるみたいだけど」
「………帰るか」
「………そうだね」

どうぞ来年もその先もよろしく

Thanks.彩さま


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