「暇じゃのー…、」
「ああん?結構なことじゃねーか」
「ここは男ばっかでつまらんきのー…。銀時ぃ、ちくと町に下りてキャバクラにでも行かんかえ?」
「昼間っから何言ってんだてめえは。…まあどうしてもってんなら俺ァ別に構わねえけどォ…」
「…おまんの言うとおりぜお。確かにこんな時間から行く馬鹿は居らん」
「え。いや、俺ァ別に構わ「まさか本気にするもんも居らんじゃろうしの…」
「……うん」
「あー、暇じゃのー」
「…そんな暇ならあいつ手伝ってやりゃあ喜ぶんじゃね?今超忙しそーだし」
「あいつ?」


そう言う銀時の指差す方を見てみると、せわしなく走り回る一人の少女の姿が辰馬の目に留まる。まだこの陣営に来たばかりの彼は初めて見かけるその姿に思わずきょとんと目を見開いた。


「あの娘はここの女中さんかえ?」
「あ?名前のこと?そうだけど…何お前まだ会ったこと無かったの?」
「名前ちゃん言うがか。あがなこまい娘が居ったんじゃのー!」
「まあたしかにチビだよな。けど…」
「めんこいのー!」
「いや確かに可愛いけど、お前なんか勘違いして…って、ちょ、待て!」


後ろで辰馬を呼び止めようとする銀時に構わず、彼はすたすたと少女の元に近づいてゆく。
見たところまだ十二、三歳といったところだろう。辰馬の腰より少し高い位置までしかない体をてきぱきと動かす彼女に向かって彼は声をかけた。


「そこのおんし、ちくといいかの?」
「はい?あ…、坂本さん…ですよね。どうかしましたか?」
「おお!わしの名前ば知っとるがか!」
「え、あ、…はい。ここに居るみなさんの名前ならもう全員覚えたから…」
「ほうかほうか!えらいのー。それとわしのことは辰馬でえいきに」


そう言ってぐりぐりと頭を撫でてやれば一瞬目をぱちくりと瞬かせたものの、すぐに照れくさそうに小さくはにかんだ名前を見て、辰馬はもうひとつ笑みを零した。


「ところで嬢ちゃんは何でこがな所で女中さんやりゆうんじゃ?」
「え…?」
「大変じゃろう?」
「そんなことは…。私なんかより辰馬さんたちの方が大変でしょう?私にはこれくらいのことしかできないから…」
「?」
「…ええと、私小さい頃に銀ちゃん達と同じ寺子屋に通ってたの。そこで色々あって…銀ちゃんたちが戦争に参加するって決めた時、私も勝手について来ちゃったんです」
「小さい頃?」
「はい、私戦えないから最初はものすごく反対されたんですけどね」


はて、と辰馬は首を傾げた。彼から見れば名前はまだ幼い。一体彼女の言う小さい頃、とはいつのことを指しているのだろうか。
しかしどちらにしてもこの年にしてこの場所で生きるのを決めたほどだ、よほど銀時たちのことを好いているのだろうと辰馬は一人勝手に納得すると、名前が両手いっぱいに抱えていた洗濯物をひょいと持ち上げた。
それに対して大きな目をまあるくして驚く名前。


「わしで良ければいくらでも手伝うき!これは何処に持っていけばいいかの?」
「え!いやいやいいです!辰馬さんは休んでて!今日はみんなのんびりしてるし、辰馬さんだけ手伝わせちゃ悪いもん」
「子供は遠慮しちゃいかんぜおー」
「べつに私子供じゃ…って、辰馬さんそれはこっちです!」
「あっはっは、まだここのことは全然分からんきに!一緒に着いて来とーせ」
「だから辰馬さんは休んでてって、ちょっ、置いてかないで下さい!」
「それとな名前、こんくらいしかできん何てことは無いがよ」
「え、?」
「わしゃ銀時らの過去は分からん、付き合いもまだ浅い。…けどすぐに気づいたこともある」
「……気づいた、こと」
「あんしらは此処に帰ってきた瞬間、まっこと安心したふうに笑うきに」
「………」
「やあっとその理由が分かったぜお、おんしが此処で待っちょるからじゃったんじゃなあ!」


洗濯物を抱えて歩く辰馬は名前の隣でさも楽しそうに笑う。
交わした言葉などまだほんの少し、たった数分の会話だ。けれど名前が彼に心を開くのには充分だったようで、


「…銀ちゃんたちが貴方のことを楽しそうに話す理由…分かった気がします」
「?、何か言ったがか?」
「…いいえ!あ、洗濯物ここです!」


もっと彼のことを知りたいと思う、この気持ちの名を彼女はまだ知らない。





「……何をしてるんだ銀時」
「あ?ヅラ…と、高杉か」
「ヅラじゃない桂だ」
「てめェこんな所で一人でこそこそと何してやがる。ついに頭でも沸いたか?」
「るっせーチビ杉。あれだよあれ」
「ん?…ああ、名前じゃないか。坂本も一緒に何をしてるんだ?」
「さあ。洗濯じゃね?」
「へえ、名前が俺たち以外の奴に懐くなんざ初めてじゃねぇか」
「それもそうなんだけどさ、坂本のやつ…多分まだ名前のこと子供だと思ってんだよな、ぷくく…」
「ああ…、まあ仕方が無かろう。名前の童顔とあの身長ではな…」
「名前が俺らと同い年って知ったらびびるだろうなー。早くバラしてやりてー」
「俺はまだ信じらんねぇよ」
「…つーか名前のやつやけに楽しそうだな。すっげ笑ってらあ」
「ああ、心なしか顔も赤いな」
「…………まさかな」
「?、何がだ?」

「…………」
「…………」
「………?」
「……な、なな何言っちゃってんの高杉くーん。んなわけねーよ笑えねーよ。まさか名前があんな天パなんぞを…」
「おめえも天パだろうが」
「……認めません!!俺は断じて認めませんからァァァァ!!」
「おい貴様らさっきから一体何の話をしておるのだ」
「てめえは黙ってろヅラ!」
「だからヅラじゃない桂だ!」


雲間に太陽

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ほのぼの攘夷ズ私も大好きです!
Thanks.薫さま


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