はじまりは、ほんの些細な日常会話からだった。

「ああ?バイトォ?」

「そーじゃ!銀時も金欠ちゆうちょったろう?わしがいい所見つけてやったき!」

「バイトねぇ…ま、いいかもな。ちょーど退屈してたとこだし」

「高杉とは違っておんしは彼女一人居らんからのう!アッハッハ」

「テメェもだろうが毛玉!」

「アッハッハ!泣いていい?」

そうしてあいつが俺を引っ張っていったのは駅前の喫茶店。

雰囲気も時給も良く、たまにはやるじゃねぇかと俺が驚くと辰馬はいつもとは違う、はにかんだ笑顔を見せて俺に言った。

「実はのう、ここはわしの友達が働いちゅーて、そいつに紹介してもらったんじゃ」

「へえ、」

「いっつもニコニコしちゅうまっこと可笑しなヤツじゃけえ、多分銀時もすぐ分かるぜお」

「そりゃまんまお前じゃねーか」

そう言ってからからと笑った俺は数日後、初めてその少女と顔を合わせることとなった。
辰馬の言う通り、屈託のない笑みを初対面の俺に向けてきた彼女の名は刹那というらしい。

「坂田さん、はじめまして!」

「うお、はじめまして……って、なんで俺の名前?」

「辰っちゃんからよく話を聞いてるから、」

「あー…じゃああんたがバイト紹介してくれたっつー子ね、よろしく。俺のことは銀さんでも銀ちゃんでもいーから」

「ふふ、辰っちゃんが言ってたとおりだ」

「辰馬あ?」

「うん、死んだ魚みたいな目してる天パだって…」

「あの野郎あとでシメる」

「だけどとっても綺麗な目と髪の色を持ってる人だって!」

そう言って柔らかく微笑んだ彼女に俺は思わず目を丸くした。

生まれつきのこの髪色のせいでいつも周りから敬遠されてきた俺は、そんなことを言われたのは初めてだったからだ。

そして周りと分け隔て無く接してきた同世代の人間がヅラと高杉と辰馬以外に初めてだったからというのもある。

とにかくその瞬間から、俺にとって刹那という少女の存在は特別なものとなった。

当然、俺たちが親しくなるまでにそう時間がかかるはずもなく、気づけばいつも隣にいた。

「銀ちゃん見て見て、」

「どうしたよ」

「辰っちゃんが昨日またアホなメール送ってきてさあ─…」

それから知ったこと、こいつと辰馬は昔からの友達だということ。

「何だこりゃ、やっぱあいつ馬鹿だろ。絶対馬鹿だろ」

「でしょー?…でも、辰っちゃんらしいよね」

こいつが辰馬のことを大切に思っているということ。

「……そーだな」

そのたびにちくりと痛む胸が何を意味するのかくらい、俺にも分かっていた。

「二人で何話しゆう?」

「辰っちゃん!ふふ、内緒だよ」

「気になるのう、でもまあ大方わしの話じゃろ?モテる男は辛いぜおーアッハッハ」

「…………」

「えっ、シカト?泣いていい?」

「ぷっ、あはは!」

俺が自分の気持ちに気づいてからはすぐに分かった。
あいつは…、刹那は…、辰馬に向ける笑顔だけ他のものとはどこか違った。

それはなにか特別というものを表しているようで、俺はその特別の意味も知っていた。

何故なら俺だって今その特別を向ける相手がいるからだ。

「じゃあ二人ともまた明日ね!」

「送らんでえいがか?」

「へーき、まだ夕方だもん」

「じゃあ気いつけての」

「ありがとう、…じゃあね!」

けれど踵を返すその瞬間、刹那が辰馬に向けた笑顔は俺が見た中でやっぱり一番のそれで…、

「……なあ辰馬、俺、さ…」

「ん?」

「…………」

「銀時?」

そこまで言って俺は口を閉じた。

俺は今こいつに、一体何を言おうとしていた?

俺も刹那のことが好きだと、こいつにそう伝えようとしたのか?

なんのために?誰のために?

それは他の誰のためでもない、俺自身のためにだ。

「…いや、何でもねぇや」

「おまんはおかしな奴じゃのー!アッハッハ!」

「………おい黒もじゃ、」

「今度はなんじゃ?」

「…………、大事にしなかったらぶっとばすからな」

誰を、なんて一言も言っていなかったのに俺の言葉を聞いた辰馬はぴたりと笑うのを止め、突然真剣な表情をしてはっきりと言った。

「当たり前じゃろう」

……ああ、こいつ。俺の気持ちも分かってやがったな?

それすらまとめて抱え込むつもり満々ですかコノヤロー。

ふざけやがって。

だから俺はどうしてもお前のことを嫌いになんかなれねぇんだよ。

本当にこれで良かったのかなんて聞かれたら、そりゃあ良いわけねぇけどよ、

それでもあいつが、…刹那が、あまりにも幸せそうに笑うから。

だから俺は、こういう愛のかたちも有りかなって思えんだ。


愛のたち


それぞれに違いがあってもいいだろう?俺は幸せそうに笑うお前を愛してるよ。


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