暗い暗い夜空の海に浮かぶ星達は爛々と輝き、眼下に広がる世界を眺めている。

そこから私はどんな風に見えるのだろうか。

真っ赤に染まった大地と同じ色をした刀を握りしめたまま、私はそんな疑問を空に投げかけてみる。

「刹那!」

「辰っちゃん、」

「やあっと見つけた!今まで何しよったがかー。みんなおんしを心配しちゅうよ」

「…ごめんね、戻ろうか」

「……ちくと待つぜお」

私はどうしてそう言われたのか分からなくて、引き止められた腕をまじまじと見つめた。
次に辰っちゃんに視線を移すと苦虫を噛み潰したような彼の顔が目に映る。
それすらも何故だか分からない。

「辰っちゃん?」

「おまん…その血、は…」

「え?ああこれ、全部返り血だから気にしなくてもだいじょーぶ」

「わざとじゃろう…?」

「………え、」

「……前々からおんしが自分からわざわざ返り血なんぞを浴びにいきよるがは知っちゅう。……一体どういうつもりぜお」

「………」

「刹那」

咎めるような口調で辰ちゃんに名を呼ばれたのは当然ながらこれが初めてだ。

ああ、これを言ったら辰ちゃんは怒るのかな。それとも同情してくれるのかな。どちらにしても欲しくない感情ばかりだけれど。

だけどなんでかな、あんたになら自然と…少しだけなら本音を零してもいいのかなって思ってしまうんだ。

「……ねえ辰ちゃん、この世界にはさ、たくさんの人間が生きているでしょう?」

「あぁ」

「その中で苦しんでる人なんて、それこそごまんと居る」

「……そうじゃの」

「だから気づいてもらえないかもしれない、それが怖いの」

「気づいて…?誰、に…」

「真っ赤になった私なら、あの人も気づいてくれるかもしれない」

それは私の密かな願いだった。
誰よりも目立つように真っ赤になってしまえば、きっと見つけてもらえるって、そう思ったの。

静かに、静かに時が流れる。
聞こえるのは風の音だけ、すでに事切れた躯たちだけが私たちのことを見つめていた。

そんな中先に口を開いたのは辰っちゃんだった。

「………わしはおんしらが言いゆう先生ちゆう人を知らん」

「……うん」

「やけどおんしらの話を聞くかぎり、わしはその人がそがあな人間だとは到底思えんぜお」

「っ、」

「そん人はそがあなことせんでもおんしらのことをちゃんと見守っちゅう。違うか?」

その瞬間、心のどこかがびくりと震えるのが分かった。

それは幼い記憶の中に眠る先生の残像が脳裏をよぎったせい。

…嗚呼、わたしは辰っちゃんの言葉でようやく気づいた。

私は悲しみの絶えないこの戦争に理由が欲しくて、自分の願いだと言ったそれを…いつの間にか戦う理由に置き換えていたんだ。
それがあまりにも自分勝手な希望だということにも気づかずに。

「あ、あ……わたし…っ、」

「刹那……」

「わ、たし、最低だっ!先生を、人殺しの理由にするなんて…!」

「刹那、ちがう」

「ちがわない!私、私は…っ」

「刹那!」

思わず跳ねたわたしの肩には辰っちゃんの手が添えられている。
口調とは打って変わって優しく添えられた彼の手のひらは、私の肩を赤く染めた血を溶かすように、じわりじわりと暖かかった。

「……おんしはまっこと優しいおなごじゃのう」

「なんで、わたし全然…むしろその逆だよ、ひどい人間だよ」

「何を言いゆう。ひどい人間ちゆうがはのう、簡単に人の命を奪いきる奴のことじゃ。そういう奴らは少なくとも戦が終わるたびにおんしみたいな顔をしちょらせん」

「……………」

「そんな優しい刹那やき、みんなおんしのことを大切に思っちゅうんじゃ」

「みんな…?」

「銀時も晋助もヅラも…わしも、おんしのことが大切じゃき」

そう言いきった彼はやっといつもの笑みを見せてくれた。
まるで太陽のようなそれは私にも暖かな日の光を当ててくれる。

溶けてゆく、赤。

「…ありがとう、辰っちゃん。
ちゃんと…思い出せたよ。私の戦う理由、生きる、理由…」

ねえ先生、ここに大切な人が居ます。あなたに気づいてもらえるようにと戦ってきた私だけれど、ようやく思い出せたんです。

それは戦争に参加しようと決めた、最初の理由。
私には護りたい人たちが居るの。

それを思い出させてくれたのは目の前の彼なんです。

いつかきっと先生にも会ってもらいたいなあ。


溶けた、そして


それは新たな私の願いごと。


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