遠いなあって思う。いつも。
あなたの目に私はどういう風に映っているんだろう。

知り合いの女中?それとも仲間?どちらも光栄な関係だけれど、私が求めている関係ではないの。

それを知った貴方は私を我が儘な女だって軽蔑するんだろうか。

そうなることが怖いから、私はどうしても動けないんです。副長。




「刹那」

呼び声に微睡んだ世界から意識を起こす。いつの間にか目の前に立っていた副長に思わずぱちくり。

「お…はよう、ございます」

「ああ。……それより刹那、おめえに話があるって近藤さんが呼んでたぞ」

「あ、近藤さん…ですか」

「そうだ。急ぎの用ってわけじゃねぇみてえだったが、まあそれなりに急げよ」

「はい、分かりました」

「じゃあな」

そう言ってすぐに背を向けた副長にいくら視線を投げかけても彼が振り返ることはない。

その背中にまた、思う。

(遠いなあ、)

何故だか感じるこの距離感はどこから来るのだろうか。
女中と隊士という関係もその理由の一つかもしれないが、きっとそれだけではないと思う。
自分でも分からないが、まるでそこに見えない壁でもあるかのように、どうしても近づくことが許されないような。

……そんな感じが、する。

それはいつものことで、自分ではどうしようもないこと。
だからこそとりあえず今は気を取り直して近藤さんの元へ急ぐのが先決だ。

そう思い至って局長室へと駆けた私は数分後、辿り着いた局長室にてお妙さんへの愛を長々と語られることなどまだ知らない。







数時間後、部屋を出たころには空の色は茜色に変化していた。

ああ、今から急いで夕餉の支度に取りかからなくてはと小さくため息を吐いた瞬間だった。

「刹那?」

まさか近くに人が居るとは思わなかったために驚いて顔を上げると、その声の主である副長は暫し目を瞬かせてこちらを見ているところだった。

「まさか今まで近藤さんの話につき合わされてたのか?」

「え…あ、はい」

「すまねぇな。この時間はただでさえ女中にとっちゃ忙しい時間帯だろ?ただあの人も悪気があるわけじゃねえんだ」

「ふふ、もちろん存じておりますよ。わざわざお気遣いありがとうございます」

私がそう言うと僅かに口角を上げて微笑む彼。
その笑顔にまたひとつ、とくりと鼓動が脈を打つ。

「……近藤さんがあんたとの会話は楽しいって言ってたの。なんか分かったような気がする」

「…え?」

「あんたと喋ってっと、なんか……落ち着く」

そんなふうに笑って、そんなことを言うのは反則ですよ、副長。

そう思いながらも徐々に顔に集まってきた熱を感じながらふと気づいたこと。

今感じるのは見えない壁でも距離感でもない。
私の感覚を支配してく貴方の声。それは今、すぐ近くで聞こえた。


とどいた声に


あなたのことが好きです。


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