ごめん、ごめん、ごめんね。

どうしてこんなにも気持ちが溢れるのか、私にも分からないんだ。
どうしてこんなにも貴方に焦がれるのか理由が見つからないんだ。

ごめん、ごめん、ごめんね。

これからどうすればいいのかな。
私にできることはあるのかな。
あんたを幸せにするなんて大それたことは出来なくてもせめて、悲しんでほしくなんてない、のに。

分からないよ、どうしよう。

私、なにも分からない。

そんな私はきっと誰にとっても役立たずで不必要で、邪魔な存在。

だからもう私は、私が要らない。

「刹那」

なのに、ねえ。
そんな声で私を呼ばないで。

気まぐれな優しさで私をつなぎ止めるのはもうやめてよ。
そのあんたの優しさは私にとって痛みでしかないの。

あったかくって、痛いの。

「晋助、ごめんね」

「…何を謝る」

「ごめんね、ごめ…」

「謝ってんじゃねェよ!」

どん、と私の顔のすぐ隣に拳が叩きつけられた。
苦しそうに顔を歪めているのは晋助で、拳は小さく震えている。

「どうして、お前なんだ、よ」

そんな顔を見せられるくらいならいっそのこと突き放してほしい。
嘘よ、ずっとずっと抱きしめて離さないでいてほしい。

どうせどちらも叶わないのなら

「晋助の手で殺してほしい」

このまま病に殺されるくらいなら、私はそれを望むよ。

もとからあんたに捧げた命だったんだから、そんなこと構わない。

「笑えちゃうよ、ね。死に物狂いであの戦争で生き残って。こんなに、呆気なく、病気なんかで…」

「…………」

「脆いもんだよね、人間って…」

「…あァ、脆いな。
脆くて、…だから愛おしい」

「し、んすけ……?」

「俺が、お前を殺せるわけがねェだろうが…っ、」

「!」

「頼むから、死ぬな…!死ぬなよ…刹那!」

「…っふ…ぇ、し、すけ…私、わたしまだ、死にたくない、よ!」

「………、」

「死にたくないっ、しんすけの、側に居たいよ…っ」

瞬間、暖かい何かがわたしの体を包み込んだ。
やっぱりあなたは優しすぎるよ。
こんなにすきなのに、どうして。
どうして、どうして、わたしは

「まだ、此処に居たかった…っ」

「過去形に、してんじゃねェよ」

「…ここは、しんすけのにおいがするの…っ、」

「……………」

「あっかくて、だいすきなの」

ふいに晋助の腕の力が強くなったのがわかったけれど、もう腕に力が入らなくて抱きしめ返すことはできなかった。

だから私は首を傾けて彼の頭に顔をよせてみる。晋助のさらさらとした髪の毛が私の頬を撫でた。

「ただひたすらに、生まれて初めて誰かを愛おしいと感じたんだ」

「………、」

「それが、おまえだったんだ…」

晋助は私の胸に顔をうずめて、まるで呟くように言葉を紡いだ。

枯れ果てたと思っていた涙が溢れて止まらなくなったのは、彼があまりにも愛しすぎたから。

ねえ、神様おねがいです。
これ以上このひとを苦しめるのは止めてください。
こんなに寂しがり屋な彼をどうして貴方はこんなにも傷つけることができるの?

叶うならば私の全てと引き換えにどうかこの人に愛を、キスを。

そして笑顔を、かえして。

呼吸停止、
少女はいている


「なァおい、先生ばかりでなくお前まで俺から奪っていくこの世界を、どうして享受できる。
…出来るわけがねえ、よなァ?」

歪んだ笑みを浮かべた彼の目尻にひとつぶの雫。
それを拭う手はもう、ない。


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