「あ、見つけた!」

どれだけ分かりにくい場所に居たって、どれだけの音に紛れてたって、私はあなたの姿を見つけ、声をたどれる自信があるよ。

「しんすけ!」

「刹那か…?」

「何してるの?」

「………別に、何も」

「あ、子猫だ!」

「………………チッ、」

だって当たり前でしょ?あなたは私の特別なひとなんだから。

「どうしたのこの子?」

「さァ?俺がここで昼寝してたら勝手にすり寄って来やがった」

「へえ…」

「クク、人間の方は好き好んで俺にくっついて来るやつなんざお前くらいなんだがなァ」

「べ、別にくっついてなんか!」

「どうだかなァ?お前、俺が行く先々でいつも犬みてぇに近づいてくるじゃねえか。あれは何だ?」

「い、いや…あれは…その…」

まさか好きだからだなんてそんなこと言えるはずがない。
だってほら、今のこいつの顔。
いっそ清々しいくらいのどや顔だもの!今わたしがそんなことを言い出すなんて微塵も思ってないような顔だもの!

そして彼女は散々ごもった末に、思ってもいない言葉を零した。

「そ…その、服がねっ!」

「あ?服?」

「そう!その、戦装束がさ、最近銀ちゃんが来てるやつに似てるなあって、思って!」

「…………」

「もしかしたらお揃いかなァとか思ってさあ!近くで見てみようかなー、なんて!あはは、」

「…………」

「あの、晋助さん?」

「…………」

「え、なに、どうしたの」

「……るっせーよ、馬鹿女。
もうついて来んじゃねーぞ」

「なっ、」

なんでと問う前に向かい合った高杉の目に思わず口をつぐむ刹那。

そのかわりに、あからさまに不機嫌な顔を見せる高杉に向けて見えないようにため息一つ。

それには気づかない高杉はぷいと踵を返して部屋をあとにする。

「……何なのよ、一体」

「にゃあ」

「ん?」

ふいに聞こえた鳴き声の方に顔を向けると、高杉において行かれたらしい先ほどの子猫がこちらを見上げていた。

抱き上げて視線を合わせてみれば、じっと見つめてくるその双眼は深緑の色をしていて刹那は暫し目を丸くする。

「君、誰かさんとそっくりだね」

「にゃ?」

「ねえ、なんで晋助は怒っちゃったのかなあ…?」

「いや、今のはお前がわりーよ」

「は…?ね、ねこが喋っ、」

「阿呆か、こっちだっつーの」

よく聞けばその声は聞き慣れたある男のもので、襖の向こうからひょいと顔を出したのはやはり思っていたとおりの彼だった。

「銀ちゃん?いつからいたの」

「高杉が猫で遊び始めた頃から」

「それって最初からじゃ…ってゆうか私が悪い、って?」

「おうよ、さっきのは流石におめーがわりーよ刹那。高杉じゃなくてもあれはイラッとするわ」

「でも私晋助を怒らせるよーなこと言った覚え、ないんだけど…」

「ったく…、よし。じゃあ鈍感馬鹿の刹那ちゃんに人生経験豊富な銀さんがいいこと教えてやらぁ」

「ど、鈍感馬鹿?!いま鈍感馬鹿っつった?!」

「嫉妬…ってゆうんだぜ?」

「え、」

「高杉の、あーゆう態度のこと」

「………嫉妬?」

「そ。じゃあなー」

それだけ言うとしたり顔をして部屋から去ってゆく銀時の背中を、刹那はただただぽかんとした顔で見送った。

それからしばらくして漸く立ち上がった彼女はぽつりとひここと。

「……晋助、どこかなあ」

「なう」

「一緒にさがしてくれるの?」

「にゃあ!」

「ふふっ、ありがとう!」

そうしてほんのりと赤みを帯びた頬で笑みを零す刹那が次に向かうのはもちろん、今ごろ仏頂面を顔に貼り付けているであろう、彼のもとへ。


るしはいらない


ねえ晋助、知ってる?
本当に優しい人っていうのは動物からも好かれるんだってさ。


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