「思い、だした…俺は、お前は…」

「…っ、あー…銀ちゃんだ」

「おまっ、目ぇ覚めて…」

「銀ちゃ、どーしよ、なんか…体、が、超重たい…」

「馬鹿、まだ喋んな!」

「なんか、これ…似てる」

「は、?」

「これ、あの時と、…似てる」


彼女の言うあの時、が銀時には一瞬理解できなかった。

だがしかし彼もすぐに彼女のあの時、と同じだと実感することになる。

過去と今。重なった面影は、血まみれの彼女とその姿を見下ろす、自分だった。


「ち、がう!似てねぇ…!あの時とは違う、お前は死なねぇ!」

「…、ごめ、ごめんね銀ちゃん」

「っ、何がだよ…」

「わたしのせいで、思い出させた」

「……………」

「あんな辛い過去、思い出す必要…銀ちゃんには無かったのに…」


目を閉じて、過去を想えば浮かびあがるのは灰色の空。

その空の下で自分は臆病者なんだと無言で嘆く白の姿は、いつだって悲しそうに笑っていた。

その光景は"シアワセ"というものには到底結びつくはずのないもの。

だがしかし、今彼女の目の前にいる彼は思いもがけない言葉を返した。


「辛くなんかねぇよ」

「……?」

「確かに苦しんだりもした、けど……俺は、幸せだったから」

「っ…、」

「俺はお前に逢えて、めちゃくちゃ幸せだったから」

「う、…ひっ、く」

「だから、俺は思い出せて良かったって本気で思ってる…っ、なのに」

「…、」

「約束したじゃねぇか!次会えた時は平和な場所で、ふたりで…、」

「銀ちゃん…ありがと、これで私、安心して眠れるよ」

「待てって!」





「おやすみ、銀ちゃん」





薄く笑って目を閉じた伊織はだらりと腕を落とした。

その様子をただ目を見開いて銀時は見つめる。


「おい嘘だろ…、っ伊織!」


肩を揺する手を強めても、彼女の体はそれに従いぐらぐらと揺れるだけでその瞳が開かれることはない。

銀時は歯をくいしばり、のたまう。


「…っこんなのってねぇだろ!」

「起きろよ、っオイ!!」

「頼むから、伊織っ、」

「伊織!!!!」




















「ぐうー……」











「………は、?」

「すー……」

「は…?え?生きて、る?」

「ぐー……」

「………………」

「すぴー……」

「ふ、」

「ふざけんなァァァァァァア!」





───────────
────────
────……






「いやーごめんね銀ちゃん、きのう色々準備してたら寝るの遅くなっちゃってさー…」

「…………」

「今日の朝も早起きしなくちゃいけなかったから寝不足で……」

「…………」

「坂田さーん聞いてる?」

「…………」

「おーい、坂田さ…」

「ふざけろよォォォォ!!」

「うわっ、びっくりした」

「じゃあさっきのは何!何でお前泣いてやがった!?」

「や、だから私のせいで昔のこと思い出させちゃったわけだし」

「……、ちくしょー…、騙された」


銀時は頭をかかえ、伊織は苦笑いでそれを見る。

そんなふたりが今居るこの場所は町の病院のベッドの上だ。


「騙されたって…わたしこれでも重傷患者なんだからね?右足骨折に加えて左腕の切り傷!けっこーしんどいんだよ?」

「……さっきまで死にそーだと思ってたヤツから、んな元気に説明されても説得力ねぇんだよ…」

「ちぇ、」

「それに、俺ァもう一つ言いたいことがある……」

「なに?」


そう言って首を傾げる伊織は何も思い当たることがないらしい、きょとんとして銀時の方を見ている。

一方銀時はというとふるふると拳を震わせているかと思うと勢いよく顔を上げて叫んだ。


「何でよりによってこいつらがここに居やがるんだよ!」

「こいつらってまさか俺たちのことじゃねぇよな銀時ィ?」

「コラ高杉、銀時がそんなこと言うはずかないだろう」

「まっことその通りぜお!」

「お ま え ら だ よ!!」


銀時が指差す先には三人の男。
高校に入ってから知り合い、親友と呼べる仲までに至った彼らは今の銀時にとっては当然、懐かしいはずの面々で、だからこそ少し妙な気持ちにもなる。


「つーか伊織、お前いきなり学校に呼んだかと思ったら次は病院に来いたァどーゆーこった」

「うん、ごめんね晋助」

「そういう割には高杉が一番焦っちょったようじゃがの」

「なっ、辰馬てめぇ何勝手なことぬかしてやがる!」


しかし前にも見たことがあるような光景に思わず頬をゆるめたのは銀時や伊織だけではなかった。


「………懐かしいな」

「え、何か言った?小太郎」

「いや、何でもない。……それより伊織、どうして俺たちを学校に呼んだのだ?」

「………先に銀ちゃん待ち伏せしてビックリさせようと思って…」

「んだよ、そんなことか」

「そんなことかってひどい!!」

「お前そのせいでもし死んじまってでもしたら報われねーなァ」

「うっ、で、でも生きてるもん!」


そんな高杉と伊織の会話を銀時は不思議そうに見ていたが、すぐにぽつりと疑問をつぶやく。


「つーか俺を待ち伏せるってなんで?どーゆう意味だよ」

「……………え」


銀時にとっては当然の疑問。
しかしそれを聞いたまわりの4人はまったく呆れたとばかりに酷く白けた顔をしている。


「な、なんだよ。俺なんか変なこと言ったか?」

「……変なことっていうか銀ちゃん、……今日何の日か覚えてる?」

「今日?…10月10日……あ、」

「………ま、ここで言うのもどうかと思うんだけどね」


目をまあるくした銀時に伊織が眉を下げてはにかむ。

ため息を吐く高杉も、何故か微笑んでいる桂も、いつものように大声で笑う坂本も、

ほんの一瞬だけ、いつかの彼らのように微笑み、そして──


「誕生日おめでとう、」


いつかの夢の中で、様々な想いがあふれるその言葉を紡いだ。


「………………」

「生まれてきてくれて、また私と出逢ってくれて、有り難う銀ちゃん」

「………っ、あぁ、」

「ん?またってどーゆうこった?」

「ふふ、まだ晋助には内緒!」










やっと、還ってきた約束。
ようやく出逢えた君へ。
今日やっと生まれた君へ。


    Re:birthday


ありがとう、ただいま。
返事、遅くなってごめん。


「銀ちゃんのことが、すき」

「俺は、……あいしてる」



叶った約束は歌となり、彼らは誰かに歌われる。

巡り巡った物語は、これにて幕引きの時を迎えた。

それでは銀色の貴方、大切なものを両手に抱え、どうか幸せに。


2010.1010 祝、坂田生誕記念
著 わらび


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