大好きなみんな。
大好きな晋助。
そんな彼は今私の目の前で真剣な顔をしてこちらを見ている。
沈黙は別に辛くない。
「どうしたのいきなり」
「いきなりじゃねえよ。ずっとこうしたいって思ってた」
鼻がくっついてしまいそうな位の私たちの距離は、呼吸すらくすぐったく感じてしまうほど。
彼と壁の間に挟まれた私は身動きが取れない。逃げるつもりも、無いけれど。
「…俺が怖えか」
「怖い?どうして?私が晋助のことを怖いなんて思うわけが無いじゃない」
「おめえは今好きでもねえ男に襲われそうになってんだぞ?」
「私は晋助のこと好きだよ」
とたんに晋助が驚いたような顔をするものだから、私は思わず首を傾げた。どうしてそんなことを思うんだろう?私が晋助のことを好きじゃないわけないのに。疑問がぐるぐる渦を巻く。
胸の奥がもやもやして胸糞悪い。
すると晋助はふと普段見せることのないような優しい笑顔を垣間見せる。そして私の頬に手を添えて言った。
「なんだよ、俺ァてっきり…」
「え?」
「…いや、何でもねェ」
とたんにぎうと包み込むように抱きしめられた身体。私の肩に顔を埋めた晋助の柔らかな髪の毛がくすぐったい。
肩口で晋助が小さく微笑んだのが分かった。
「ずっと、おまえが好きだった」
その言葉に私の胸のもやもやはまたひとつ濃くなる。抱き締める力が強くなった。
「愛してる」
そう言った晋助の唇が私のそれに触れかけた、その瞬間。私のもやもやがぱっと晴れた。みるみるうちに口角が上がってゆくのが自分でも分かる。
「わかった!」
「あ?」
「もやもやの原因」
「もやもや?」
「うん。わたし晋助のことは好きだけど、こういうふうに触れられたいって思うのは銀ちゃんだけなんだ!」
ああすっきりした。晋助のおかげだね、どうもありがとう。
遭難、そして消滅
ゆるやかな平穏は墜ちた。
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