冬を迎えたかぶき町。寒空の下で並ぶ二人の男女は白い息を吐き出しながら、ある場所を目指して町を歩いていた。

「寒っ!何これ馬鹿じゃないの。最近地球温暖化とか何とかみんな騒いでるけど神様気い利かせすぎだから。こんなに寒いと私みたいなか弱い生物はとてもじゃないけど生きていけないから」

「…か弱い生物って誰」

「だから私」

「可哀想に。寒さで頭がやられちまったんだな。俺がいい精神科の病院紹介してやるよ」

「いや頭の病気は精神科じゃなくて内科…っつーか私はいたって健康だはり倒すぞ天パこのやろー」

「相変わらずてめーの口の悪さはもはや女のそれとは思えねーな。
一体どうやったらそんな風に育つんだ?」

「頭の弱い天パと堅物真面目のヅラ男と目つき悪いクソガキと一緒に育ったらこうなりました」

「え、何こいつ殴っていいの?
ねえ殴っていいの?」

「とにかく今すぐ暖かくしやがれ神様コノヤロー!!」

「つうかそんなにさみいなら家帰ろうぜ。俺も帰りてえよ」

「いや!寒いのは嫌いだけどおでんのためなら私は負けない」

「何その無駄な意地」

「ここで動かねーと自分が自分じゃなくなるんでィ」

「なんかそれ聞いたことあるんですけどォォ!」

「おでんー熱燗ー」

「おまえはオヤジか」

「おお!やっと見えてきた!」

「おい伊織、あんま走んな!」

「ぶべっ!」

「地面凍ってっぞ」

「……、先に言ってくれなかった銀ちゃんが悪いんであって決して私がドジしたわけじゃないから。断じて違うから」

「つうか色気のねえ声。もうちっと女らしい叫び声あげろよ」

「え、叫び声?それなんの話?」

「いやいや何事も無かったかのような顔してっけど鼻真っ赤だからねお前。うっわ、痛そー」

「ぎゃっ、触るな染みる!」

「ぷぷ、面白れー顔」

「るっさいドS!」

そうしてがらりと扉を開けば、待ちに待ったおでんのいい香りが二人の鼻をくすぐる。

しかし思わず上がる口角を押さえて、どうだとばかりに後ろを振り返った伊織の目に映ったのは予想外にも銀時の萎えた瞳。

彼の目線の先を見てみればそれが何故かなんて、簡単に分かってしまうのだけれど。

「土方さんじゃないですかー!
久しぶりですー」

「伊織?……と、万事屋…」

「俺の顔見たとたんに顔色変えるの止めてくれる?大串くん」

「それはお前だろうが。つうか大串って誰だ、しばくぞコラ」

「まあまあ二人とも。ここで会ったのも何かの縁!そういがみ合ってないで楽しく飲みましょ」

そう言う伊織はというと、さっきまで外の寒さに文句を零していた表情とは打って変わって満面の笑みを浮かべている。
ここに来ることを余程楽しみにしていたのだろうか。

「おい伊織、俺がいつ大串くんと飲むっつった?」

「えー、だって折角会えたのに」

「そりゃ俺の台詞だ。てめぇなんぞと席並べたら酒が不味くなる」

「土方さんまで…」

「おでんを犬のエサにするようなやつにんなこと言われたくねえんですけどー」

「銀ちゃん喧嘩売らない!」

「あん?これのどこが犬のエサだ。まあてめえの狂った舌じゃあこの味の良さなんて分かんねーかもしれねえがなァ?」

「土方さん買わないで!」

「はいぷっちーん銀さんこれぷっちん来ちゃったよマヨ方君。
表出ろやコラ」

「ちょっと銀ちゃん何言ってんの!私達まだ来たばっかりでしょうが。土方さんもそんなちゃちな誘いに乗るわけが…」

「上等だコラ。親父、お勘定!」

「…もういいわ。好きにしろ。
あとはどうぞお二人さんで…」

「はァ?何言ってやがんだ。お前一人こんな所に置いていけるわけねえだろうが」

「は?え、うそ」

「夜の飲み屋は危ねえの。おら、土方ぶっ飛ばしに行くぞ」

「いっ、いやいやいや!気遣いは嬉しいけどまじ心配要らないから!てゆうかお願いします勝手に消えて下さい」

「んなわけにはいくめーよ」

むんずと掴まれた襟首にさーっと青ざめていく伊織。しかしずるずると引きずられる身体は無情にも暖かなおでんの香りと引き離されていった。

「ああぁあ私のおでんんん!!」

「まああれだ。土方との勝負がついたら俺が家で嫌ってほど暖めてやっから。…体で」

「だまれ変態!」


真白歌う夜


がらがらがら、店の戸が鳴る。
しかし出てきたのは伊織だけで、銀時の姿は何処にもない。
土方はその光景に疑問を零した。

「あ?伊織、万事屋はどうした?まだ中か?」

「……、土方さん飲み直しましょう。私いい店知ってるんで」

「え、いや…万事屋は「行きますよね?」…おう」


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