ねえねえ、知ってる?
貴方が思うよりもこの世界はひどく残酷で愚かなんだよ。
ねえねえ、知ってる?
貴方が思うよりもこの世界はひどく優しくて利口なんだよ。
「つまり何が言いてぇんだよ」
つまりこの世界はそんな矛盾に溢れていて、きっとまだまだそんなたくさんの側面があるの。
「だから?」
だからこんな楽しいものを壊すだなんてもったいないなあってたまに思っちゃったりもするんだ。
「ほォ、つまり俺にはついて来れねえってことか」
ううん、そうじゃないよ。この世界にいくらたくさんの側面があっても、どうしたってわたしはこの世界を愛しいとは到底思えそうにないから、貴方のことを否定する気にはなれないし。
したくもない。
「…てめぇは意味が分かんねェ」
そう?そうなのかな。そうなのかもしれないね。
「かもしれなくねぇよ。そうなんだよ」
てゆうか晋助ったら今日はとってもごきげんだね、何か良いことでもあったの?
「クク、俺のことよく分かってるじゃねえか」
そりゃあね、これでも私ったら貴方の女ですから。
「ちげえねぇ」
で、で、良いことってなあに?
「あぁ、万斉がな、明後日開かれる幕府のお偉いさんの会合場所を嗅ぎつけたんだが、そこに面白れぇ客人が来るらしくてなァ」
ふうん、客人って?
「真撰組局長、近藤勲と真撰組副長、土方十四郎だ」
へえ、真撰組の局長さんと鬼の副長さんが…、
でもなんでそれが良いことなの?
「土方十四郎…あいつァ俺と似てる。目的のためなら何だってする人間だ。つまり真撰組局長、近藤勲をためならなァ」
うん、そうだろうね。
局長さんのことをあんなに慕ってる副長さんのことだから、きっと局長さん護るためなら仲間だって斬れちゃいそうだもん。
「クク、なァ伊織」
なあに。
「あいつ…近藤を目の前で殺されたら、どういう顔すると思う?」
そりゃあまあ…、とんでもなく面白い顔するでしょうね。
「ふ、あいつにも味わらせてやりてぇなァ…俺と同じように」
「大切な人間を、伊織…お前を目の前で殺された思い、あいつにもたっぷり味わらせてやりてぇ」
さて、もうすぐ夜が明ける。
徐々に明るくなってきた空と比例するように、最後に僅かながら悲しそうに微笑んだ少女は朝に溶けていった。
殺気の渦巻く室内で男は一人、憎悪を顔に滲ませ笑った。
辞世の句
ねえ、そんなふうに笑わないで。
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