「な、俺のことどの位すき?」

「うーん地球いっこぶんくらい」

「それって結局どのくらいなの」

「たぶん、銀ちゃんが考えてるよりもおっきいくらい」

「そっか」

至極曖昧な質問に対し、同じように曖昧に答える、わたし。
取り留めのない会話が、今わたしたちを繋ぐゆいいつの何か。

「ねえ、地球といえばさ」

「うん」

「もうすぐ地球が終わるんだってね、みんな騒いでたよ」

「地球が終わるって…なんか表現おかしくね?」

「そうかな」

「まあいっか」

「そうだね」

万事屋のソファーの上で各々の思うようにくつろぐわたしたちはいたっていつもどうり。

銀ちゃんはぺらぺらとジャンプをめくっていて、わたしはそれをぼんやりと眺めているだけ。

けれど一歩万事屋から外へ足を踏み出せば外は混沌とした街並みが広がっているのだろう。
人々は波となり、我先にとターミナルへ向かおうとしている。

「銀ちゃん銀ちゃん」

「ん、どーした?」

「銀ちゃんは行かないの」

「どこに、」

「宇宙」

わたしがそう尋ねるとほんの少しだけ間が空いた。
どうやら悩んでいるようだが、依然として彼の視線はジャンプにしか注がれていない。
所詮彼にとっては地球の滅亡、などその程度の興味でしかない。

「行かない」

銀ちゃんが導き出した答えは他の人々とは異なるもの。だけど彼が言えば至極当然のことのように思えるから不思議だ。

「そっか」

「伊織ちゃんは行かないの」

「うーん行かない」

「なんで」

「銀ちゃんが行かないから」

「そっか」

「うん」

ちくたく、ちくたく

秒針は絶えず時を刻む。
あ、地球滅亡まであと130秒。

「よし」

その声と同時に、よくやく銀ちゃんがジャンプを閉じた。
どうしたのと尋ねるまえに、彼の両手がわたしに向かって伸びる。

とたんにぎうと抱きしめられた。
わたしは特に抵抗もせずじいっと銀ちゃんの温もりを感じる。あったかい、だけど抱きしめる力が強くて、少しだけ、苦しい。
それがなんだか居心地がよくて、思わず目を閉じて口元を緩めた。

地球滅亡まであと90秒。

「…どうしたの、銀ちゃん」

「んや、別にい?ただ…」

「ただ?」

「とりあえず最後はおめぇを抱きしめとこうって決めてたから」

そんだけ、と言って笑う銀ちゃんはやっぱり何でもないようにからからと笑う。
だからわたしもつられて笑った。

地球滅亡まであと30秒。

「ねー銀ちゃん」

「ん」

「言い残したこととか、ない?」

「んー、」

「んー?」

「伊織ちゃん」

「はい」

「愛してる」

「ふふ、知ってる。わたしも愛してるよ銀ちゃん」

「それも知ってる」

「うん、それじゃあまた」

「おう、また…」

また、世で

ああ幸せだなあ、と何方ともなくわたしたちが微笑んだ瞬間、地球ではどれくらいの人が絶望に涙したのだろうか。
なんて、意識もない今となっては不毛な疑問だね。

地球滅亡まであと0秒。



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