何時か、またどこかであの人に会えるその時を、わたしはずっと待っている。だから、
「伊織!」
「ふざけんな起きろ!」
腹部にどくどくと熱いものを感じる。
腹から吹き出るように流れてゆく朱は底しれず、服に染みを広げてゆく一方で。
虚ろに視線を泳がせば馴染みの顔が四つ、らしくない表情を浮かべたまま私を護るようにして刀を構えている。
「み、んな…」
「伊織?!立てるか?」
「……みんな、きいて」
「今は話してる暇なんざ…っ」
いつのまにか真っ赤に染まっていた私の世界。
仲間を失うことが怖くて、怖いくせに護り通す力も無くて、情けなくて逃げ出したくて、それでもひだまりのように暖かい貴方たちの存在がここにはあったから私は確かに幸せだった。
だから貴方たちが傷つくのなんて絶対に嫌だ、死んでしまうなんてもってのほか。それに、私は…
「…、いって、はやく」
死ぬことなんか怖くない。
怖いもんか。
だって死んでしまえばきっとあの人に会えるんだもの。
ずっと恋い焦がれていたあの人に、会えるんだもの。
「おねがい、いって」
「っ、おまえ何言って…!」
「わたし、もう…たつことも、できない…あしでまといは、いや」
「………っ、」
「いっしょうの、おねがい、だから…」
ああ、ごめんなさい。
そんな表情をさせたかったわけじゃないの。ただ生に執着の無い私なんかのために、あなたたちの血を流させたくなかっただけなの。
「っしょ…、っちくしょう…!」
泣かないで、銀ちゃん。わたしは貴方の綺麗な魂を忘れないよ。いつだって私の憧れだった。それはこれからだって変わらない。
「…………、」
晋助ごめんね。先生に誰よりも会いたかったはずの貴方より私の方が先に会いに行ってしまうこと、どうか許して。
「なんで…、お前がこんなっ」
あのね、小太郎。昔から貴方は私たちの中の誰よりもしっかりしていて、そして誰よりも頼りになってくれた。私、そんな貴方の支えになれたらって、ずっと思ってたんだ。
「伊織…!」
辰馬の笑顔と底知れない明るさに、私は今までどれだけ救われてきたんだろう。伝えきれないほど、感謝してる。
「………、行くぞ」
「なっ、銀時?!」
「伊織を置いていくがか!」
「…っ、俺たちは生き残らなくちゃならねえんだよ…!」
「…っ、」
「死んでいった仲間背負って、生き残らなきゃならねえんだ!」
ありがとう銀ちゃん、そう言いかけて声が出ないことに気づいた。
あれ、視界が霞んでく。
離れていく、みんなの声。
あれ、あれ、なんだこの気持ち。
ようやくあの人に会えると言うのに、ずっと望み続けたこの瞬間がやってきたというのに。
寂しいなんて、悲しいなんて、……死にたくないなんて、
なぜ今更こんなことを思うの。
「あのな、伊織。俺たちにゃまだやり残したことがあんだ」
そっか、いつの間にかわたしにとってのあんたたちの存在ってこんなに大きくなってたんだね。
あの人、先生よりも大きな存在なんていないと思ってたのになあ。
「だからそっちに行くのは少し遅くなるかもしんねぇけど…」
またあの時と一緒だね。
伝えたい言葉を伝えられない。
ただ違うのはあの時とは立場が逆だということ。
消えてしまうのは、わたし。
「少しだけ待ってろ。必ず見つけだしてやるから」
だけど銀ちゃんのたった一言で苦しかったのも寂しかったのも全部なくなってしまった。
だってこれでわたしは、これからどうするべきかちゃんと分かったから。
"うん、待ってる"
精一杯の力で笑ってみせたつもりだったけれど、銀ちゃんたちは分かってくれたかな。
言葉にできないこの想い、彼らに伝わっていればいいと、思う。
そうしてわたしの魂は世界から滑り落ちた。
本当はずっとね、
(一緒に居たかった、なあ)
戦争はひとりの少女の命をも奪って間もなく終わりを迎えた。
目的を失った俺たちは袂を分かち、今はそれぞれ別々の道を歩んでいる。
全員が全員、いつも幸せだということはないけれど。
いつだって最後に見せてくれた伊織のあの笑顔が、俺たちの生きる礎になってくれていることは確かなことなんだ。
ならば伊織に会えるその日まで、俺たちは精一杯今を生きようじゃねぇか。
ありったけの土産話こさえて、いつか会えたそのときは、
「またあの笑顔、見せてくれよ」
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