「あー…、おつかれ私」

今にも泣き出しそうな曇天の下、天人と侍の骸を囲むそこに腰を下ろした少女は呟く。

へらりと浮かべられた笑みを向ける先に生きている者は誰もいない。その穏やかな笑みは自分に向けられたものか、あるいは亡者に向けられたものか、それを知るは少女のみ。

「今日もよくがんばったね」

少女の視線の向かう先は頭の上にある曇天。少女は空を仰ぎ見て笑う。にこにこ。

「伊織…?」

突如として呼ばれたのはその少女の名であった。呼び声に応えるかのごとく少女はそちらに顔を向ける。にこにこ。

「晋助だ!おつかれさまー」

「……てめぇこんな所で何やってやがる。退却命令出ただろうが」

「ぶー!そう言う晋助だって此処に居るじゃん」

「俺ァてめぇを捜してこいって言われて来たんだよ、早く行くぞ」

「やだもうちょっとここにいる!晋助は先に帰ってていいよ」

「やだじゃねえんだよ。俺だって好きで捜してやってたわけじゃねえんだ、早くしろ」

高杉はぐいと少女の腕を引いて立ち上がらせると、そのまま足早に拠点へと足を進める。

それを不服そうにして少女は口を尖らせるがお構いなしだ。

「晋助のけち!」

「何とでも言え」

「いじわる!」

「知ってらァ」

「私今日がんばったのに!」

「それァ俺だって同じだ」

「…ちょっとは誉めてよ」

「あァ?」

「今日もたくさん殺したんだね、よくやったって誉めてよ」

それを聞いたとたんに高杉の足が止まる。と、同時に彼は少女の方を振り返った。高杉の目は明らかに動揺の色を示している。

しかしそんな彼とは打って変わって少女は満面の笑みを浮かべていた。にこにこ。

「たくさん殺したよ。助けてって言われても全部無視して、一人残らず首を掻き切ってやったよ」

「伊織、」

「だから誉めて、私を誉めて。私がしたことは間違いじゃないよって、私に思い知らせて、じゃないと私、わたし…っ」

笑顔が崩れていく、唇に塗りたくった微笑みが剥がれ落ち、少しずつ、少しずつ、

「わ、たし…もう、自分が、分かんなくなる…!」

ふわりと少女の身体を包み込んだのは高杉の腕だった。ぎうぎうと押し付けられる胸板を少女はただただ黙って受け入れる。

「伊織、よくやった」

「……、」

「おめぇは間違ってなんかねぇよ、だから自分自身に懸念を持つ必要なんざねぇ」

「…っ、ふ」

「刀を振るう事に懸念を持つな」

正義?悪?真実?嘘?そんなものなんざ糞くらえ。生き残るためならば全て踏みにじってやるさ。

「生きろ」

そのために、どれほどの感情を削ぎ落とされようとも。
ただ、今を歩き続けるために。

斯くして天は哭する

とうとう泣き出したのは曇天か、あるいは彼女の心か。



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