ある夜、副長室でのこと。
ひたすら書類にペンを走らせていく土方を見ながら、伊織はぽつりとつぶやいた。
「……あのさ土方さん。」
「なんだ。」
「たばこっておいしいですか?」
「てめぇはまだ未成年だろうが。断じて吸わせねぇぞ。」
「いや誰もそんなこと言ってないですから!純粋にそう思っただけです。」
「……まあ、旨いな。今みたいにイラついてる時は特に。」
「ありゃま。そんなにイラついてたんですか?」
「深夜に他人の始末書かたずけててイラつかねー奴ぁいねえよ。」
そう言った彼が手元にあった紙をぺらぺらと見せつけてくる。
なるほど。先ほどからずっと作業しているのに一向に数が減らないあの書類は一体どのような内容なのかと考えていたが、沖田さんの始末書だったのだな。
そりゃあきりがないはずだ。
「お気の毒様です。」
「そう思うならちったあ手伝いやがれ。」
「わー今日は月が綺麗ですねー」
「顔背けてんじゃねェェェ!」
「ところで土方さん。」
「ったく今度はなんだ。」
「マヨネーズって食べるもんなんですか飲むもんなんですかそれとも吸うもんなんですか。」
「…、かけるもんじゃねぇか?」
「やっぱりそうですよね。ではその手に持ってる物は何ですか?」
「マヨネーズ。」
「…………。」
「…………。」
「……やっぱマヨネーズじゃないですか。しかも単品。」
「煩ぇ、今はかけるもんがねぇから単品で飲むしかねぇんだよ。」
「常人の思考だったらそんな結論は出ません。ほら、もうそれは私に預けて下さい。」
「チッ、」
「チッ、じゃないです。いくらあなたでも体に悪いでしょう。」
「お前は俺のかーちゃんか。」
「いいえ、私はただの副長補佐です。」
土方からマヨネーズを受け取った伊織はすっくと立ち上がり廊下へと足を進める。
「おいどこ行くんだ?」
「ちょっと台所まで。」
「は?」
こんな夜に何のようだ、と問いかける前に彼女が答えた。
「適度にこれ使った夜食、持ってきますからそれまで我慢して下さいね。…できれば煙草も。」
彼女がそう言うと同時に部屋の襖が閉ざされた。
閉ざされた襖をしばらくぽかんと見つめていた土方だがふん、と鼻を鳴らすと煙草を灰皿に押し付け、再び書類へと視線を戻す。
どうしてか、煙草を消したというのに、さっきまでのイラつきが嘘のように綺麗さっぱり無くなっていた。
煙草とマヨネーズと君
どうやらそれは俺の日常に欠かせないものたちらしい。
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