愛おしいと言葉にすればするほど、それは何だかとてもチープな言葉に聞こえてしまうの。

それはきっと例えあなたの口から紡がれたものだとしても同じこと。

だってどれだけの愛の言葉を伝えあっても、私はこの場所であなたを待つことしかできない。

「愛してるよ伊織、またな」

絡めた指先をほどいて、あなたはどこへ言ってしまうの?

それすら聞くこともできない。私はあなたのことを何も知らない。

ここは薄暗くて嫌いだわ。

たとえば真っ暗ならば去り際のあなたの背中を見ずにすむのに。

たとえばもっと明るかったならばあなたの身体をこの目に鮮明に焼き付けることができるのに。

どちらともできない私はやはり今日も繰り返す。

「…私、も、愛してるよ…。
またね銀ちゃん」

嗚呼、愚かしくも愛おしい。

誰か私たちにはっきりとした関係を名付けておくれ。

そうすればきっと私はそれにすがりついて、いつまでもあの人を待っていられるのだから。

誰かを愛してはいけない私が、
愛してしまったあの人を。


呵責へのぐない


最初は、それだけの関係だと思っていた。

口にするのも煩わしい。

身体を求め合い、互いに己を満たして、さようなら。
そんな関係。

それは俺も伊織も一緒で、これから先も変わることのないことであり続けるだろうと。

だけど最近はそうでなくなってきていた、…俺が、だ。

だって去り際にいつも、ちりりと胸が痛むんだ。

俺が立ち上がった瞬間の、伊織の瞳が余りにも遠くに感じて、思わず手を延ばしそうになった。

駄目だ、駄目なんだ。

所詮これは許されない恋。
あいつにとっての俺はただの客。

なのにどうして、こんなにも愛おしい気持ちが溢れるんだろう。

「どうしてこんなになっちまったんだろうなぁ…、」

呟いてみても何も変わらない。
俺はきっとまた同じようにして彼女のもとを訪ねるのだろうと、夜の町でひとり薄く笑った。

嗚呼、夜明けはまだ遠い。


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