「う、わあ…きれい。」
きらきらと夕日を浴びた川の水面に思わず零れたのは声だけではない。頬をつたう雫もまた然りだ。
「っ……、う…」
憎むにはあまりにも美しすぎる世界が、哀しくてしかたがない。
そしてここには居ない、誰かに向けて囁く。
「………ねえ、あんたは」
大切なものを手放してまでもがき苦しむあんたは、
「世界に何を訴えたいの」
──帰ってくる言葉はない。
夕焼けにぼやけた視界の中で、深緑の瞳を思い出した。それが幸せそうに細められる様を最後に見たのはいつだったか。
少なくともその双眼がひとつになってしまってから見ていない。
銀時たちと紅桜の件で久方ぶりに彼を見た時、あまりにも豹変しているその姿に息をのんだ。
当然だ。笑う表情も、声も、空気さえまったくの別物になってしまっていたのだから。
それでも確かに覚えている。
それは遠い記憶の中で、今でも色艶やかに。
「しんすけ、」
誰よりも仲間を信じ、世界を信じ、己を信じていた人だった。
だからなのか、
すべてに裏切られたと、そう嘆いて、叫んで、苦しんで。
「自分をも憎んでいるの?」
何もできなかったって、
「…会いたいよ、ばか。」
そう思っているの?
「晋助の、ばか!」
「誰が馬鹿だコラ。」
「あの頃みたいに怒ってよ…っ」
「晋助のばかァァ!!」
「うるっせぇ!!」
「なんだ?どうしたんだ?」
「おい高杉ィ、伊織に言われちゃお終いだぜ?」
「黙れ天パ!うわぁぁあん」
「そこまで言う?!」
「まあまあ落ち着くぜお伊織〜」
「そうだぞ、せっかくの飯がまずくなるだろう。」
「だって小太郎、晋助があ〜…」
「どうしたのだ?」
「晋助が私の卵焼きとったあああああうわああん!」
「………高杉。」
「………ふん。」
「おまんたしか甘いもん苦手じゃなかったがか?」
「高杉おまえ、伊織にちょっかいかけたいだけ…へぶっ」
「黙れ天パ。」
「お前もかァァァ」
「ふええぇん久しぶりの糖分だったのにぃぃ!!」
「よしよし、泣き止むぜお。卵焼きならわしのをあげるき!!」
「って何しとるのだ坂本!」
「ん?卵焼きを伊織に…」
「それはいい。だが誰が口移しでやれと言ったァア!!」
「……ぶっ殺す。」
「ちょ…ま、まて高杉いまのはほんの冗談じゃき!!」
「聞こえねぇ、ぶっ殺す。」
「たっ高す、ぎゃあああああ」
「うわぁぁぁあん!!」
「うるっせぇぇぇぇ」
どれだけ時が経とうと忘れることなんてない。戦禍の中で苦しみながらも、笑っていられたのはみんなが居てくれたから。
晋助だって覚えてるでしょう?
だからもし神さまって人が本当に居るのなら、どうかお願い。あの日々を、晋助に笑顔を、もう一度ください。
彼を独りにしないでください。
そして彼女は唇を噛み締め、もう一粒だけ涙を零すと、今度こそ袖でそれを拭って、万事屋へと続く帰路を辿った。
陽炎に消える背中
「……………」
「ん?どうしたでござる晋助。
いきなり黙って……。」
「……いや、」
(気のせいか。)
「なんでもねェ…」
(あいつの声が、
聞こえた気がした。)
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