どうして神威さんはそんなに悲しい目をしているの?
「悲しい目?」
「はい。」
「そんな風に見える?」
「見えるですよー。」
そう言う彼女は夜兎族の少女。まだ7・8才だが春雨第七師団の団員としてこの船に乗っている。
団員になったばかりの頃から、何故か俺につきまとってくる少女の名前は伊織。
つきまとってくる女はウザイから嫌いだけど伊織だけは別。なんたってほかのやつらと違って伊織は強いし。俺、強いやつ好きだし。
だけどそんな伊織が時たま俺に言ってくる言葉にはいつも困惑させられる。うん、今みたいにね。
「えー俺よく分かんない。」
「神威さんのことなのに。」
「だって悲しい目って言われても俺、何のことだか分かんないし、そんな目してるつもりないし。」
「えええ、そーなんですか。」
「そーなんですよ。」
「ふーん。」
でもおかしいな。俺いっつも笑ってるよね?伊織にはそう見えないのかな?
そう聞けば「神威さんはいつもニコニコだよ。」って言われた。やっぱり伊織は変なやつだ。だけど、面白い。
そう思ってケタケタ笑うと、伊織は突然手を打ってこう言った。
「あ、そっか。」
「どうしたんだい?」
「神威さんは妹さんに会いたいんですね、だから悲しいんじゃなくて寂しいんだ。」
「…は?」
まさかの一言に思わず目を見開いてしまう。俺が神楽に会いたいだって?
「……そんなわけないだろ。どうして俺があんな弱いやつに会いたいなんて思うんだよ。」
「妹さんは弱くないですよ。」
「弱いよ。少なくとも、伊織よりは弱いさ。」
「うーん……あたしはそうは思えないけどなあ。」
「へえ、じゃあ伊織は神楽のことを強いと思うんだ。」
「うん。妹さんは強いです。私には怖くて向き合えないものにも立ち向かっていける人だもん。」
「……何が言いたいの?」
「あたしは血を見るのがすき。」
にっこり笑って何を言うかと思えば、ためらいなくそう言い切った伊織にしばし目を瞬かせる。
「きれいな、きれいな朱色を見たらどきどきする。もっと見たいなあって思ったら勝手に体が動くんです。けどそしたら最後、つかれたなあって思っても止まらない。あたしはアレがきらいです。」
「………」
「戦うのはすき、血をみるのはすき、だけどいうこときかない自分はきらい。あたしはそれをどうにもできないですよ。だから嫌だけど、抵抗なんてしたことなかったのに、…妹さんはちゃんとそれと戦ってるんです。すごいです。強いなあって思いました。」
「違うね。あいつは弱いよ。」
「どうしてですか?」
「あいつは夜兎の血に怯え、逃げているだけ。戦っているなんてただのいいわけさ。」
「なるほど、それが物は言い様ってやつですか。」
「よくそんな言葉知ってんね。」
「阿伏兎さんが言ってました。」
俺はそうなんだ、と答えたっきり話をするのを止めた。
そうすればこれでこの話は終わりになると思って、
なんとなく神楽の話を他人とするのは、すきじゃない、から。
しかしそんな俺の耳に思いもしなかった言葉が届く。
「……じゃあわたし、神威さんの妹になりたいです。」
「……は?」
あんまり唐突にわけの分からないことを伊織が言うから、普段めったに見せない蒼を大きく見開いてしまった。
「だってそうしたら神威さんもさみしくなんかないでしょう?」
言い訳はしない。驚いた。
変なやつだ変なやつだとは常日頃から思っていたけれどここまでとは。だけど分からない。どうして伊織はそこまで俺を想ってくれるのだろう。聞いてみればほぼ即答で返事が返ってきた。
「神威さんだからです!」
うん、聞いた俺が馬鹿だったかな。納得できるような答えが返ってくるなら、まず俺は悩んですらいないだろう。
てゆうか俺、別に神楽に会いたいなんて一言も言ってないのに。
だけどなんでかな。胸のあたりがやけにぽかぽかするんだ。
この幼子に救われたとか、全然そういうのじゃあないけどさ。
「ありがと、伊織。」
「いーえ!」
これからもこの子の傍に居たいなって思った。ただそれだけだよ。
ひだまりの天使
「伊織ー、あと10年くらいしたら俺との子供ほしくない?」
「神威さんの子供?!わぁ楽しみです!あ、コウノトリさんにお願いしてたら運んできてくれますかね?」
「あっはっはかわいーなもう。」
back