近藤さんが私達が今立っている大地ならあなたは私達の太陽だね。
私達をいつも見守ってくれているもの。
そう言ってお前が笑った時、意味がわかんねぇと答えてしまったけれど、本当は嬉しかったんだ。
だって俺にとっての太陽はあんただったんだから。
あんたはぶっきらぼうで、だけどだれにでも平等に優しく、暖かく、そして絶対的だった。
そう思ってたあんたにそう言われたたんだ、そりゃ誰でも嬉しいだろう。
なのになんで。
なんでなんだよ。
「──────伊織?」
「副長!!如月さんがっ!!」
嗚呼、なんだこれは───…
ある夜のこと、とある宿に攘夷獅子が潜伏しているという情報を手にいれた俺たちは、それらを討つためにすぐそこへ向かおうとしていた。
情報によれば敵は10〜15人という比較的少ない人数。
副長を筆頭に1番隊が向かうことになったのだが、その日は総悟を京へ向かわせていたため副隊長である伊織が一番隊を率いていくことになった。
「伊織、お前らは東口から突入しろ。俺と残りのやつらは南口から行く。数は少ねぇ、挟み込むぞ」
「了解、…副長、気をつけてね」
「バカヤロー相手はたった10、20だぞ。俺が負けるわけねぇーだろうか」
「うん、分かってる。でも…なんか嫌な予感が…、」
「あ?何か言ったか?」
「!、ううん何でも…」
「?じゃあ行くぞ。」
「あ…、っ副長!」
「なんだ?」
「………また、あとで」
「……あぁ、またあとで、な」
不安をかき消すかのようにニコリと笑って駆け出す伊織と数人の隊士。
そして俺たちも突入した。
向かってくる攘夷獅子をどんどん切り倒し、奥へ進む。
「ハァ、ハァ、…おい、なんだこれは!聞いてた話よりずっと敵の数が多いじゃねえかっ、俺たちだけでもう30は切ったぞ!」
「ハア、ハァ、どうやら間違った情報だったみたいですね、一番隊は大丈夫でしょうか……」
「心配いらねぇよ、伊織が居るだろーが。あいつぁ剣の腕なら総悟にだってひけをとらねぇ」
そうだ。あいつは強い。だから心配なんかいらねぇ。そう、思うのに───
(何なんだこの胸騒ぎは)
だがそれを気にかける暇もなく、それからも俺たちは宿の中の攘夷獅子たちを斬り進んだ。
そうしているうちにしばらくして気づいたこと、───…何かおかしい。
それは他の隊士も気付き始めたようで…
「副長、そろそろ1番隊と合流してもおかしくないはずなのですが………」
「チッ、」
隊士の顔にも徐々に不安が見え始めるのが分かった。それは自分も同じ。
その刹那、再びけたたましい叫び声と共に攘夷獅子が襲いかかってきた。
「くっ……!」
刀を交える音が響く。
そのとき一人の隊士が叫んだ。
「副長!一番隊の方に向かって下さい!我々が道を作ります!!」
「馬鹿野郎!んなことできるか!全員で合流するんだ!!」
「そのためにです!!」
「全員で合流するために!」
「行ってください副長!!」
「俺たちは大丈夫です!」
土方は驚いたように目を見開いたあと、隊士たちの目を見てゆっくりとうなずく。
「分かった。行くぞてめぇら!」
「「「おおおお!!」」」
そのかけ声と同時にまた激しくぶつかり合う刀と刀。
そして土方は走った。一番隊のもとへ、彼女のもとへ。
走って、走って、見つけた彼女は
「───…伊織?」
涙を流す数人の仲間に囲まれ、血にまみれた姿で横たわっていた。
そのまわりには信じられないほどの攘夷獅子たちが倒れている。
「ふっ、うぅ…伊織さん!」
「目を覚まして下さいっ!!」
どくりどくりと心臓が騒ぐ。
嘘だと、誰か嘘だと言ってくれ。
「っ、副長!伊織さんが!」
「聞いてた情報と違って、っ…攘夷獅子の奴ら、50は優に越えていました!!でも、伊織さんが踏ん張っていてくれてなんとかもってたんです……」
「ですがその時俺がっ、隙をつかれて…ひっく、斬られそうになったところに突然伊織さんが!」
口を開くもの全員が一気に状況を説明してくるがほとんど頭に入らない。
ただ分かったことは伊織が仲間をかばって倒れたということ。
俺たちが進んできた道より、はるかにこちらの方に敵がまわっていたということ。
混乱した頭で無意識に動く足は伊織へと向かう。
「…副長、あとはお願いします」
「きっと伊織さんも副長と一緒に居たいと思うから……俺たちは他のやつらの加勢に行きます」
そう言って俺が来た道へと向かっていく隊士たち。
伊織に助けられたと言った隊士も泣きながら引きずられるようにして仲間と同じ道へ向かった。
静かすぎるこの部屋に居るのは、伊織と俺と攘夷獅子の亡骸だけ。
そっと触れた彼女の頬には、あの太陽のような優しい暖かさはもう残っていない。
「っ、…またあとでって言ったじゃねぇか……なぁオイ、目ぇ覚ませよっ!!」
涙が、あふれた。
もう嫌だったのに、大事なものを無くしてしまうのは。なのにまた俺は一つ無くしてしまうのか?
そう思った刹那。
「ふく、ちょ」
気のせいかと思うほどの小さな声だった。しかしその声はたしかに土方の耳に届いた。
「っ、伊織?!」
その声に薄く微笑む伊織。
「副長、だいじょぶ、ですか?
怪我、してませんか…?」
「バカヤローが、まだ喋べんじゃねぇよ…」
そう言って安心したように彼女を抱きしめる土方だが、すぐに違和感に気づく。
「伊織……?おまえ、どんどん冷たく──「ふくちょ、」
優しく弧を描いている彼女の唇が言葉を紡ぐ。
「いつか、私があなたを太陽のようだと言ったこと……覚えてくれてますか?」
「副長は不器用だから、まわりの人たち、に、すぐ誤解されてしまうけれど」
「私はしって、ます。あなたはとてもとても優しい…ひと。太陽のように、真っ直ぐにみんなを照らしてくれる」
「私は…、あなたのような人になりたかった」
何、を言ってるんだ。
太陽はおまえだろう。
仲間を愛し、護り、いつだってその笑顔でみんなを包み込んでくれていた。
俺だってずっと、おまえのような人間になりたかった。
そう伝えたいのに声が出ない。涙がじゃまをして伊織の顔すらよく見えやしない。
あれ、なんで俺は泣いてんだ?
伊織は生きているのに───
そのまま眠ってしまったのか、伊織は動かなくなってしまった。
それからすぐに他の隊士たちが戻ってくる。
「副長……伊織さんは……」
「ん?あぁ、寝たみたいだな。仕方ねぇから俺がおぶってく。パトカーの用意を…「副長!!」
「副長!!しっかりしてください!伊織さんは、もう…っ、」
「?何言ってんだ?早く帰るぞ」
「っ!!」
何でみんな泣きそうな顔してやがるんだ?伊織は生きてるってのによぉ。
だってほら、今もちゃんと笑ってやがるじゃねえか。
「っ副長!伊織さんはもう死ん「死んでねぇ!」
土方の怒鳴り声にまわりがシンと静まり返る。誰かがしゃくりあげる声がかすかに聞こえた。
「こいつが死ぬわけねえ!」
きつく抱きしめた伊織はさっきよりもさらに冷たくなっていく。
「なんで……こんな冷たくなってんだよ…!」
神様、どうかどうか
「伊織…っ、…っう、」
俺の太陽を奪っていかないで。
どうしても、君との別れなんて信じられないんだ。
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