こぼれ落ちたことばの続き
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何をするでも無くぼうと立ち尽くす男が居た。

その男は真白の装束を身につけ、銀色の髪をもち、敵味方に白き夜叉と呼ばれる鬼神。

燃えるような赤い瞳は今は地面に向けられている。

その視線の先には伊織が、夜叉が世界で唯一愛した女が地に伏している姿。

「──────、」

喉が、つぶれたのかと思った。
ひどく息がしずらい、胸が苦しい。苦しいよ、伊織。伊織、伊織、伊織伊織、伊織、伊織………?

「銀時っ」

誰の声だ?ああ、桂か。彼の後ろには高杉と辰馬の姿も見える。

「銀時!伊織、は……─」

「……伊織?」

「銀時、おんし……」

「伊織って誰だ?」

三人の驚愕する顔が見える。何をそんなに驚いているのだろう。しかしそんなことよりも今俺は疲れているんだ。何故かは分からないがひどく頭が痛い。吐き気もする。戦の後だからだろうか。

「そんなのはどうでもいいから、俺なんか疲れてるみたいなんだ。早く帰ろうぜ、」

「銀時…?お前何を言って、」

「やめとけ、ヅラ」

「っ、しかし高杉!」

「銀時のあの目、ありゃ松陽先生の時のヤツの目と同じだ。あいつの気持ちが分かんねぇわけでもあるめェ?」

「…」

桂と高杉がなんか話してらぁ。まあ俺にゃあ何の話かさっぱり分かんねーし、気にすることでもないだろう。

「あ、?」

あれ、どうした俺。
視界がやけにぼやけて見える。目をこすればそこには見慣れない雫が頬を伝っているようで…─。

「?、何コレ」

不思議に思って桂たちの方を見ると、三人が三人、苦虫を噛み潰したような顔をしていて、余計意味が分からなくなった。

どうしてお前らはそんな顔をしているんだ?どうして俺は泣いているんだ?










「ねえ、銀ちゃん。もしもの話をしてもいい?」

「あ?いきなりどうしたよ」

「もしも私が、…私が戦で死んでしまったとしてもさ、」

「…」

「あんまり悲しんだりしないでね。私のことは忘れちゃってもいいから」

「…お前、何言ってんだ」

「ただの例え話だよ。…あのね、死んだ人間はこの空に浮かんでるお星様のどれかになるんだって聞いたの。だからいつだって残された人たちのことを見守ってるんだって。それって素敵だと思わない?…って言っても私はどうなるか分かんないけどさ…」

「?どーゆうこった」

「だって私はこれまでにたくさんたくさん命を奪ってきたから。そんな綺麗なものになれるなんて思えない、し…」

「…それなら別に、なれなくてもいいじゃねーか」

「え…?」

「俺からしたら星なんかより星らしいよ、てめぇは。きらきらしてて眩しくて仕方ねぇ…それに、どーせなら空なんかじゃなくて、ずうっと俺の隣りに居りゃいーだろ」

「……銀ちゃ…、」

「ちょ、馬鹿泣くな!なんか俺が泣かしたみてえじゃねえか!」

「な、泣いてないし!ちょっと目から汗が出ただけだもん」

「目から汗って気持ちわりィなオイ。もちっと他にいい言い訳なかったのかよ!」

「るっさい天パのくせに!」

「お前酷くない?!」

「…っぷ。あははは!」

「な、んだよ次は…」

「………銀ちゃん、ありがとう。…あのね、銀ちゃんも私にとってお星さまみたいな人だよ。だから私のお願い、聞いてくれる?」

ねえ、銀ちゃん。きっとこれからもずっと笑顔でいてね。











そうだ、そうだった。お前は俺を星のようだと言っていた。そしてお前は星になりたい、と。ならばお前は今この空の上にいるのか?俺を見ていてくれているのか?嗚呼、もしそうだとしてもやはり駄目みたいだ。俺は欲深な人間だから、お前という星が隣りに居てくれないと、そばに居てくれないと、笑って生きてなんか居れないらしい。それでも、たった一人のお前の願いだから、だから俺はこれからも笑うことを止めはしないのだろう。ただ今だけは空にいるであろうお前に願う。



伊織、お前にも俺の隣りで、ずっとずっと笑っていてほしかった。





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