04.VSシーツおばけ!
【トニオさんと!】


 露伴先生と分かれ、私たちはまた歩いていた。今頃、露伴先生はメチャクチャ怒ってる気がする。反省はしている、だが後悔はしていない。

「いや〜、あの露伴の顔、イイ気味だったっスね〜」
「露伴先生には悪いけど、あんな思い切ったのは久しぶりだから面白かったなぁ!」

 仗助と康一くんが楽しそうに言えば、全員で同意の声を上げて笑った。楽しくて楽しくて、笑いが止まらない。笑いながら歩いていると、ふとハロウィンの本場っぽい人のことを思い出した。

「あ、そうだ。ねぇ、トニオさんところ寄らない?」
「なんだ冬美、お前、腹減ったのか?」
「違う!」

 億泰に呆れ顔をされるなんて心外だ。私は君とは違うんだよ。

「ほら、何となくハロウィン詳しそうじゃない? きっとハロウィンのノリを許してくれそうというか、あわよくばあの美味しい腕前を披露したお菓子をもらえないかなとか」
「結局食い意地じゃねぇか」
「じゃぁ、仗助はトニオさんのウンまぁ〜いお菓子いらないんだ」
「なっ?! そうは言ってねぇっスよ!」
「まぁまぁ、二人とも。せっかくだし行ってみようよ」
「康一くんが行くなら、もちろん行くわ」
「確かに、あそこなら霊園前でバス出てるしなぁ。そっからホテルまでバスで行けば早いよな」

 そうして私たちは一路、トニオさんのお店「トラサルディー」へと足を向けた。


「お? あれ、ミキタカじゃねーか?」
「あ、本当だ。今日はなんか白いね」
「おや、みなさん!」

 朗らかに笑い手を振っているのは、自称宇宙人のミキタカだった。何故か今日は大きくて白い布をマントのように羽織り、その隙間からいつもの学ランが覗いている。
 駆け寄ってきた彼を迎えてすぐに疑問を投げてみた。

「こんにちは、ミキタカ。今日はどうしたの? また宇宙の文化?」
「いいえ、今日はちゃんと地球の文化ですよ!」

 そういわれてもピンとこなくて首をかしげた。他のみんなも良くわからなかったようで、まじまじとミキタカのことを見つめて首をひねっている。

「地球の文化っていってもなぁ……」
「わからん!」

 一番彼とコミュニケーションをとってる、つまり仲良しな仗助と億泰がお手上げじゃぁ、私たちには彼の不思議センスは余計にわからない。
 そんな私たちに痺れを切らしたのか、ミキタカがにっこり笑って首もとの白い布を持ち上げる。良く見れば、フードが付いているらしい。

「みなさんと一緒ですよ」
「え? ぼくたちと一緒ってことは……」
「はい、ハロウィンです」

 そう言ってミキタカがフードを被ってみせる。

「あ! シーツおばけだ!」
「はい、これが一番一般的なおばけだと教えてもらいました」

 しかも作ってもらったんですよと自慢げにくるりと回ってみせる。そうして彼曰く洗脳で母親役をしてもらってるという女性の腕前を披露してくれた。
 相変わらず、ミキタカの話しはどこまでが本当で冗談なのかわからなかった。

「ミキタカもハロウィンやってるなら、私たちと一緒に行く?」
「良いんですか?」
「おれは良いっスよ」
「オレも!」
「ぼくもかまわないよ」
「康一くんが良いなら」

 自称宇宙人のミキタカだって私たちの仲間で、友だちだから、断る人が居るわけがない。

「と、いうわけだから」
「ありがとうございます」

 こうしておばけを一人追加して、計6人のモンスターはレストラン「トラサルディー」を目指していった。


 町外れの静かな場所に、レストラン「トラサルディー」は建っている。立地条件は最悪なのに、シェフの腕は最高だから、一度に二組しか受け入れられない小さなレストランは中々に繁盛しているらしい。

「ごちそうさま、とても美味しかったわ」
「ありがとうございました。またいらシテくだサイ」

 私たちが店の前に着いたとき、ちょうどお客様が帰られる所だったらしい。満足げに頬を染めた女性と、そのお相手らしき男性が車に乗り込むのを、店の入り口に立ってトニオさんが見送っている所だった。

「お〜い、トニオ〜」
「オヤ、皆サンお揃いデ!」

 常連の億泰から声をかけると、こちらに気が付いたトニオさんがにっこり笑って迎えてくれる。

「こんにちは、トニオさん。お店大丈夫ですか?」
「ハイ、店内は今のお客様だけでシタので。ところで皆サン、その格好は……」

 とりあえず、お店の邪魔にはなっていない事にほっとしていると、トニオさんが私たちをじっくり眺めて笑みを深くした。

「Halloweenですネ!」
「正解です! せーの、「「「トリック オア トリート!」」」」
「I'm scared! 皆サン、中へどうぞ」

 招かれるままレストランへと入ると、相変わらずセンスの良い店内の椅子に適当に座るように促される。

「では、少々お待ちくだサイね」
「えっと、何か手伝いましょうか?」
「イエイエ、大丈夫デスから、待っててくだサイ」

 さっきのお客様の食器類を片付けながら、トニオさんは奥へと引っ込んでしまった。そこは彼のテリトリーの厨房だから気軽に足を踏み入れるわけにはいかないので、全員大人しく待つことにした。

「トニオさん、なんだろうね?」
「さすが世界を巡ってただけあって、対応がなれてたね」

 店内を眺めながら大人しく待っていると、すっかり忘れていたものを思い出した。手に持っていたバッグを膝に置き、手を挙げる。

「はい、ちゅうもーく。すっかり忘れてたものがありました!」
「どうしたよ冬美?」
「何かありましたか?」

 急に手を挙げた私をいぶかしんで、億泰とミキタカが首を傾げながら傍にきてくれた。
 その二人の手に、それぞれ一つずつクッキーの袋を乗せた。そう、朋子さんから貰っていたクッキーだ。

「おぉ! クッキーじゃねぇか!」
「貰って良いんですか?」
「うん! 朋子さんがね。あ、仗助のお母さんのことだよ。皆に配ってってたくさんくれたの」
「あぁ、だからあんなに貰ってたんスね。おれはてっきり冬美が食い意地張ったかと……」
「よぉーし、仗助。雪だるまになりたい?」
「わーい、クッキーあざーっス!」

 背後にジャック・オ・フロストの白い身体を浮かべてみせれば、仗助は棒読みでクッキーを受け取っていった。

「っていうか、仗助は家で食べたんじゃないの?」
「一枚も貰えてねーよ。どうせおれにも配るならくれりゃ良いのによ」

 若干不満そうな仗助に、ふぅん、なんて適当な返事をしていたら、厨房からトニオさんが何かを手に戻ってきた。

「皆サン、お待たせしまシタ。コレをドウゾ!」
「おぉ?! それはもしかして」
「プリンっスね!」
「しかもかぼちゃプリンだ!」

 トニオさんが手にしたお盆の上には、コーヒーと一緒に可愛いプリンが並んでいた。いつものプリンよりほっくりしたオレンジの濃いそのプリンには、可愛いジャック・オ・ランタンのチョコ飾りが乗せられていた。
 
「可愛い! ハロウィン仕様だ」
「ハイ、本日ご来店のお客サマにお出しするドルチェに用意してマシタ」
「ぼくたちが貰っちゃって良いんですか?」
「モチロンです! 悪戯をされては困りマスからネ!」

 バチリと飛ばされたウインクに、全員遠慮も吹き飛ばされた。流石イタリア人はそんな仕草とノリが本当に似合う。

「ありがとう、トニオさん!」
「ふふ、素敵なシニョリーナの笑顔をいただけるナラ、これくらいのことは惜しみません」

 まったくイタリア人は、まったく! 他意はないことをわかっていても、照れてしまうのが悔しい。私は純情派だからね。

「じゃぁ、いただきます!」

 こうして私たちは、トニオさんとおしゃべりをしながら、ちょっと豪華なおやつをいただいた。
 もちろん今日も億泰の「ウンまぁ〜イ!」をしっかりいただきました。


「おいしかったね」
「康一くん、プリン好きなの? なら、今度はわたしが作るわ」
「えっ! あ、ありがとう由花子さん」

 レストラン「トラサルディー」を後にしてから、私たちは霊園前からバスに乗り込んだ。二人席に座ったカップルの会話にホゾを噛むのは最後尾の団体席に並んだ一人身三人。ミキタカはバスからの景色が物珍しいらしく、窓に張り付いている。救急車とかすれ違わないと良いけど。

「そういや冬美、おまえ最後なにしてたんだ?」
「あぁ、なんか貰ってたよなぁ」
「これのこと?」

 カップルから視線を引き剥がした仗助に、億泰ものっかってこっちを見てくる。それに手にした箱を軽く持ち上げて見せた。「トラサルディー」の字が入ったそれは、お持ち帰り用のケーキ箱だ。中身はさっきのプリンが1個だけ。

「静ちゃんへのおみやげにね、貰ったの。本当はちゃんと買うって言ったんだけど……」
「さすがイタリア男」
「女には甘いよなぁ」

 だよねぇ、なんて笑いながらバスに揺られていく。
 もう直ぐで目的地だけど「トリック オア トリート!」なんて飛びついたら、承太郎さんやジョセフさんはどんな反応をするだろう?

「静ちゃん、大きくなったかなぁ」
「ほんの数ヶ月っスよ? そんな変わってねぇって」

 モンスターを6人乗せて、バスは杜王グランドホテルを目指して走っていく。


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