03.VS魔女と使い魔!
【露伴先生と!】


 三人に増えたモンスターでのこのこ歩いていれば、それなりに人の目をひいているらしい。さっきちびっ子に手を振られたので思いっきり振り返しておいた。遠くなる声が「わたしもやりたい」と言っているのが聞こえて嬉しくなる。これが切欠で町ぐるみのイベントになったら、来年も楽しめるじゃない。

「ちょっとしたアイドル気分?」
「珍獣だろぉ」
「違いないねぇ」
「あんたら私に厳しすぎない?」

 私が睨んでも、デカブツ二人は肩を竦めて笑うばっかり。まったく睨んでる効果がないのが悔しい。

「しっかし、センパイのおかげで無駄に本格的になっちまったなぁ」
「お前らボロボロだもんなぁ」
「本当よ。私なんて無駄に血糊ついちゃったもん」

 そう、先程虹村家で受けたバッド・カンパニーの洗礼により、私と仗助の衣装は焦げて穴が開いて、妙に本格的になってしまった。要するにボロボロになったってことなんだけど。特に、脚を撃たれた私は、傷口こそ仗助のクレイジーダイヤモンドで塞がってはいるが、流れた血ばかりはどうしようもない。ニーハイには血のシミがしっかりと残ってしまった。まったくいらない演出だ。
 そんな文句を言いながらも次の目的地へと到着する。目指していたのは康一くんの家で、私たちはインターホンを押して待った。億泰の家と違って声を張り上げる必要はないのだ。早く直せばいいのに。
 出迎えてくれるのは、康一くんのお母さんかお姉さんか。友達の保護者との対面というのはなんとなく緊張するものだ。全員大人しく待っていると、ドアが開いて現れたのは、予想してなかったと言えば嘘になる見覚えのある顔。

「遅いわよ、あんたたち」

 まぁ、康一くんの家に来れば由花子が居ないわけがないわけで。迎えに行く手間が省けるとは思っていた。流石に、他所様の家で出迎えてくるとは思わなかったけど。

「ていうかよぉ、何で康一の玄関から由花子が出てくるんスか?」

 仗助の驚きの声に、億泰と一緒になって張子のおもちゃのように頷く。

「あら、だってわたし、康一くんのおうちで着替えさせてもらったんだもの」
「おぉ、ラブラブだ……」
「あら、ありがとう。お母様やお姉様とも仲良くさせてもらってるの」

 思わず漏れた呟きは、どうやら由花子のお気に召したらしく、可愛らしい笑みを浮かべて教えてくれた。その計画性にちょっと引いたのは秘密だけど。

「あ! みんな、いらっしゃい。待ってたよ〜」
「おーっす」
「おまたせ〜」
「よぉ!」
「康一くん」

 玄関口で由花子と喋っていたら、その後ろから康一くんが顔を出した。それに気が付いた由花子の語尾にハートがついて聞こえるのはきっと聞き間違いじゃないんだろうな。カップルうらやましい。
 並んで玄関に出てきた二人は、家の中へ向かって「いってきます」と声を揃えていた。二人の衣装と相まって、ものすごく可愛いと思う。

「由花子は魔女っ子で、康一くんは……黒猫?」
「可愛いでしょ?」
「もう、由花子さんってば……」

 歩きながら上る話題は二人の衣装について。何故か由花子が自信満々な康一くんの格好は、黒のタキシード風のスーツに、頭には猫耳と、お尻には長くて黒い尻尾。頬には細い線が引かれていて可愛い。ついでに照れてるのも可愛い。

「シンプルなのに、なんかクオリティ高いんスけど……」
「わたしが作ったの」
「やっぱり! ひぇ〜、凝り性ってーの?」

 仗助と億泰も舌を巻く由花子クオリティ。康一くんのことに関しての行動力は衰える事を知らないらしい。

「そういう由花子の衣装も可愛いなぁ。ミニスカの由花子ってなんか貴重」
「そうかしら?」

 魔女っ子な由花子の衣装は、しっとりとした黒地のミニドレスに、リボンやレースを加え、たっぷりのパニエでスカートを膨らませている。そして綺麗な脚を強調するような編み上げのロングブーツに、綺麗な黒髪の上には可愛い魔女のとんがり帽子。

「うん、超可愛い! あとで写真とか撮ろうね!」
「あら、良いわね。康一くんとツーショットを撮らなくちゃ」

 相変わらずの由花子に笑っていたら、不意にその綺麗な眉が顰められた。何事だろうと視線を辿れば、先を歩いていた康一くんたちを越えた向こうに、見慣れた個性的なヘアバンド。

「あ、露伴先生だ」
「「げっ」」
「こんにちは、露伴先生」
「どうも」
「おーっす」

 あからさまに嫌そうな声が、仗助と露伴先生の口から同時に漏れた。変に息がぴったりな二人に笑いつつ、一応年上という事で私たちは口々に挨拶をする。

「やぁ、康一くん、あと他のやつらも」
「相変わらずですね、露伴先生」

 いっそ清々しいまでの康一くん贔屓に苦笑して言えば、それがどうしたと言わんばかりに鼻を鳴らされてしまった。それもまた絵になるんだから、この人はずるいというかなんというか。ハンサムの無駄遣いだ。
 しかし、急にその顔がしかめっ面になり、一瞬考えていた事がばれたかと思ったが、どうやら違うらしい。

「ところで君たち、そんな格好で何してるんだ。頭でもおかしくなったのか?」
「先生酷い! 今日はハロウィンじゃないですか!」

 あんまりな言いように思わず反論した私と同様、皆もむっとした顔になる。そんな私たちに露伴先生はにたりと、それはもう意地悪に笑った。

「もちろん知っているさ。だからって、本気でそんな格好して菓子をねだって回る奴が居るとは思わなかっただけだ」
「くぁ〜! 腹立つ!」
「クソッタレ仗助に言われたくないな。お前の顔を見てるだけで、ぼくは不愉快なんだぞ」

 仗助はわかりやすく怒って露伴先生にガンを飛ばしているけれど、私たちだってそれなりにムカついているわけで。そりゃ、露伴先生はこういう人だというのはわかっている。いいところが無いわけじゃないこともわかっているけれど、いや、それはどうだろう自信がないけど、ともかくムカつくものはムカつくのだ。
 メンチ切ってる仗助はそのままに、ちらりとみんなの顔を見回してこっくりと頷きあった。

「露伴先生」
「なんだい康一くん。今日という今日は、このバカに大人への礼儀ってものをわからせてやる所なんだけど……。なんだよ?」

 康一くんが呼びかければ、ごちゃごちゃ言いつつも露伴先生の注意が康一くんに、ひいては後ろに居る私たちにも向く。じっと見つめている私たちに、先生がぎょっとしたのを合図に、全員でにんまりと笑って見せた。

「「「トリック オア トリート!」」」
「なに?!」

 これぞハロウィンだろう。露伴先生のうろたえた顔がものすごく楽しくて、全員の顔に良い笑顔が浮かんでいた。今、先生は逃げを打とうとしている、ということは。

「……露伴センセ、お菓子持ってないんスね?」
「うるさい! 女子供じゃあるまいし、好きでもないのに持ち歩くもんか!」

 お返しとばかりににたりと笑った仗助へ、先生は今一番言っちゃいけない、私たちが一番欲しかった言葉を投げつけた。

「と、いうことは?」
「お菓子がもらえないってんならしょうがねぇよなぁ?」
「彼は「大人」なんですもの」
「先生、ごめんなさい。そういうルールですから」
「康一くんまで何を……」

 露伴先生の声に、私たちの背後に浮かんだスタンドすらも楽しそうだった。

「私たちの悪戯は、わりとすごい事になっちゃいますよ?」

 なんてったって、スタンド使いのモンスターなんだから。

「ジャック・オ・フロスト!」
「ギャッ!」
「クレイジー・ダイヤモンド!」
「あっ! 何をする!」
「ザ・ハンド!」
「ラブ・デラックス」
「エコーズact.3 Freeze!」
「ぐぇっ! おっ前らぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 ありのまま起こったことを話しましょう。
 まず、私のジャック・オ・フロストが露伴先生の背中に氷の粒を入れて、それに気をとられた露伴先生のバンダナをクレイジー・ダイヤモンドがそりゃぁ可愛いリボンに作り変えてしまった。怒ってこっちに向かってきた先生の足元をザ・ハンドが削り取って落とし穴を作り、ラブ・デラックスが脚を引っ掛けて穴に落とした。最後に、エコーズが重力をかけて、彼を地面に縫い付けたのだ。

「やっりぃ〜!」
「あははは!」
「すみません、露伴先生」
「さっ、行きましょう」
「じゃぁ、先生、ばいば〜い!」
「ぐぅっ……、クソガキどもがぁ! 覚えていろよ!」

 露伴先生のまるきり悪役の台詞を背中に受けながら、私たちはゲラゲラ笑いながら逃げ出した。距離が離れればエコーズの重力も弱まって、そのうち元に戻るだろう。その頃には私たちの事なんて見つからないだろうけど。

「エコーズって、案外悪戯向きなスタンドだね」
「ぼくも今気が付いたよ」


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