02.VS狼男!
【兄貴と親父さんと!】


「おっくーん! おーっくやすー!」
「おーい! 来たぜー!」

 よく言えばアンティーク、率直に言ってボロい大きな家に向かって、私と仗助は声を張り上げる。
 春に出会った頃よりもずっと綺麗になった億泰の家は、しかし相変わらずインターフォンは修理されていないらしい。ちなみに、家の整備は私たちも手伝った。特に仗助のクレイジー・ダイヤモンドは、穴だらけのこの家で大活躍だったのだ。しかし、流石のクレイジー・ダイヤモンドも配線を鼠に齧られ放題ではどうしようもないらしい。よって、この家での呼び出しはどうしても体育会系の手段にならざるを得ないのだ。
 ガタガタと家の中で人が動く音がしているので、きっと億泰が慌ててるんだろうなと仗助と笑っていたら、玄関のドアが開いく。やっと出てきたかと、私は目の前の学ランの上に乗る顔を確かめることなく飛びついた。

「遅いぞ億泰! トリックオアトリート!」
「あ! 待て冬美っ!」
「あぁ?」

 上からの低い低い声に、私は億泰だと思ったものに飛びついたまま固まってしまった。仗助も仗助で、止めるならもっと早くして! なんて逆恨みもはなはだしいことは自覚している。しかし、後ろから「グレートだぜ……」なんて聞かされて怒らない奴はいねぇ! なんて言ってる余裕はない。

「ほぉー、おまえ、良い度胸だな? このおれに飛びついてくるとは。犬の真似か何かか?」
「あぅ、あ……」
「なに、気にするな。別に怒っちゃぁいない」

 嘘だと言えるもんなら言っている! でも言える訳がないですよね、だって何ですかこの無数の足音と、プロペラ音と、キャタピラが床を踏みしめる音は。
 今、私にできる事は一つしかない。足元からの存在感に、逃げる事すら叶わないのだから。

「けっ、形兆先輩っ! ごめんなさい!」

 しがみついた体勢はそのまま、思いを込めて謝るしかない!
 完全にビビッている私の反応が面白いのか、顔を押し付けた学ラン越しに形兆先輩の低い笑い声が頭に直接響く。

「良いだろう、許してやる。ただし、目上に謝るときは「すみません」だ。それから、むやみやたらと男に飛びつくんじゃぁねぇ」
「うぅ、すみませんでしたーっ! 以後気をつけますっ!」

 正しく言い逃げ。周りからバッド・カンパニーの気配が消えたとわかった瞬間、形兆先輩から飛びのき仗助の後ろへと逃げ込んだ。

「あっ! このヤロ、人を盾にするなっ!」
「うっさいバカ助! 男でしょ!」
「東方、自分の女くらいしっかり躾けておけよ」
「ジョーダンきついっスよ形兆センパイよぉ〜」
「誰が仗助の女ですか! 酷いですよ形兆先輩!」
「お前もな!」
「おぉ? 盛り上がってるなぁ〜」

 ぎゃんぎゃんと(主に私と仗助が)騒いでいたら、待っていた間延びした声がした。ようやく億泰が出てきたらしい。

「億泰、遅いぜぇ」
「悪ぃ悪ぃ、親父がコレ気に入っちまってよぉ〜」

 文句を言う仗助に返事をしている億康の格好を見て、私のテンションが爆発した。

「おっくんかわぁぁぁぁぁぁっ!! キャーッ! わんこぉぉぉ〜〜〜っ!!」
「うぉぉっ?! なんだってんだよぉ〜?!」

 ふぁっふぁの耳と、ふっかふかの尻尾、両手は肉球付きもふもふ手袋、首には首輪までした億泰は可愛すぎた。狼男のつもりなんだろうけど、まん丸の目と相まって、私には可愛いわんこにしか見えない。さっき言っていた親父さんのお気に入りは、どうやらその尻尾らしかった。

「犬じゃねぇよ! 狼男だっての!」
「だって可愛いんだもの、わんこでも良いじゃない! ていうか可愛い可愛い、っ痛ぁぁぁーーーっ!!」
「おいコラ、さっきおれが言ったこと、もう忘れたってぇのか?」
「ひぃっ!」

 軽い連続した破裂音の直後、私の脚を痛みが襲い、ソレを抉る様に低い鬼――言わずもがな形兆先輩の声。バッド・カンパニーの白兵部隊に脚を撃たれたと直ぐに理解するも、その痛みと、形兆先輩の怒りとにガチで震えと涙が浮かぶ。

「形兆センパイ! やりすぎっスよ! 確かにコイツが馬鹿でしたけど」
「そうだぜ兄貴、やりすぎだぜぇ〜。いくらコイツでも、ちょっと可哀相だって」
「お前らも酷いわ! っていうか痛い! 本気で! 乙女の柔肌に何するんですか!」
「かまいやしねぇだろう。こういう時の東方だ」

 各々抗議の声をあげるものの、鬼軍曹殿の笑みは変わらなかった。それより、相変わらず私たちへの構えの姿勢を解かない彼の軍隊は何でしょうか。すごく怖いです。

「あ、あの、形兆先輩、ごめ、あ、すみません……」
「反省の姿勢だけなら、猿でもできるよなぁ〜〜?」

 いつのまにか、親父さんは玄関の扉の所にちょこんと隠れていた。私も逃げたいけど、逃げられない。足元で、バッド・カンパニーの銃が小さく音を立てる。

「でも何で兄貴、怒ってんだぁ?」

 今更すぎる疑問に、億泰が傾げた首根っこを仗助が引っつかんだ。逃亡の合図だ。私は仗助の背中へと飛びついてしがみついて叫んだ。

「ジャック・オ・フロスト!!」
「撃てぇーーっっ!!」

 スタンドを呼び出し、腕を一振りすると思い描いたとおりの氷の壁が私たちの前に立つ。それに一瞬遅れてバッド・カンパニーの銃弾が被弾。できたばかりの氷の壁を崩した。貫通は免れても、所詮は氷だ。それでも、私たちが逃げ出すには十分な時間稼ぎだった。

「「お邪魔しましたーー!!」」
「兄貴ー! いってくるぜぇ〜!」

 暢気な億泰の声を受けて、形兆先輩が片手を挙げるのが見えた。それがなんだか嬉しくて、調子に乗って私も仗助の背中から手を振ってみる。と、響いた発砲音に慌てて縮こまった。

「馬っ鹿お前、なに挑発してんだっての!」
「そんなつもりないってば!」
「大丈夫だぜ。今日の兄貴、ありゃぁ機嫌良いもんよぉ」
「「嘘だぁ〜!」」

 ぎゃいのぎゃいの、三人で騒ぎながら次の目的地を目指す。次はあのバカップルを迎えに行かなきゃ。でもその前に。

「仗助、あし痛い……」
「あ〜、兄貴に撃たれてたもんなぁ」
「おぉ、治してやるよ。でなきゃ、重てぇモン背負いっぱなしでおれが潰れっちまうっス」
「仗助ぇ〜〜っ……!! むっかつく! お前を氷人形にしてやろうか!」
「それを言うなら蝋っスよ」


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