Verry, Verry, Thank you!

【1999】10月


 秋晴れの空はどこまでも高く、吹く風は爽やかにしかしどこか物悲しい――なんて感傷に浸る暇もなく、グラウンドには怒号や悲鳴交じりの歓声が響いていた。

 今日は高校に入学して最初の体育祭だ。夏休み前から少しと、新学期からはみっちりと練習してきた成果が発揮されているかどうかは別として、とにかく私たちはこのお祭りを楽しんでいた。

「キャーーーーッ!! 仗助くん頑張ってえ〜〜っ!!」
「仗助くんカッコイイーー!」

 同じクラスの東方くんへの声援は、黄色い声が圧倒的に多い。なんとまあ、クラスメートのみならず他クラスから、さらには上級生のお姉さま方からも声援をいただいているのだから、顔が良いというのは恐ろしい。
 私もここぞとばかりに悪乗りして、普段はとてもできないが「仗助くん」なんて名前を叫んで応援したり、とにかく楽しい。どちらかと言えば地味な私は、大声を出す機会なんてこんな時くらいしかないのだから、東方くんには笑って許してもらおう。(そもそも、私の声を聞き分けられる訳がないので問題はない)
 ひとしきり叫んだ所で、1年生のプログラムから、今度は上級生のプログラムになった。いったん休憩しようと、今度はカッコイイ上級生を応援しようと動かない集団から抜け出した。応援席にある自分の椅子まで戻り、水筒のお茶を飲んで一息ついたところで、人波の中から小さな姿がこちらへと抜け出してきた。

「広瀬くん、大丈夫?」
「うん、ちょっともみくちゃにされて疲れたから、ぼくも休憩」

 近くの椅子に腰を下ろしたのは、同じクラスの広瀬くん。東方くんと仲の良い彼は、本人には申し訳ないがとても背が小さい。応援の人波は結構な迫力だっただろう。

「仗助くんの人気は相変わらずだね」
「本当だね。皆の盛り上がりがすごいから、私もノリノリで応援しちゃったよ」
「う〜ん、あれだけ格好良いと流石だなあ。うらやましいや」
「でも、広瀬くん、彼女いるじゃん。うらやましいのはこっちだよ〜」

 照れ笑いを浮かべる広瀬くんに、もう一度うらやましいとため息が漏れた。
 そう、彼にはぶどうヶ丘高校一強烈な美少女の彼女が居るのだ。確か、仗助くんと共にいつもつるんでいる虹村くんと同じクラス。美人で勉強も家庭科も完璧だけど、とにかく性格がキツイと噂の山岸由花子さんだ。山岸さんの猛烈なアタックに、広瀬くんが惚れ返したとかなんとか。うらやましいったらない。

「見てても、なんかお似合いだもの。この二人好き合ってる!ってわかるっていうか」
「そ、そうかな〜? あんまりからかわないでよ。恥ずかしいなあ」

 そうは言っても、広瀬くんだってまんざらじゃなさそうだ。私も早く、こういう彼氏っていうのを作りたい。いや、せめて好きな人くらいは見つけたい。

「そういえば、今日は山岸さんは? 流石にクラス違うからこれないかな」
「うん、流石に競技中は止めてってお願いしたから。昼休みには一緒にお弁当食べるんだけどね」
「わ〜、もう、ごちそうさまです」

 そう言って笑い合っていた時だった。広瀬くんが小さく「あ!」と声を上げた。何かに気が付いたらしい彼につられて振り向こうとした時、顔の横を何かが飛んで行くように風が吹き抜けた。でも、特に何かが飛んで行ったのは見えなくて、振り向いた先には山岸さんが顔を赤くして立っていた。

「山岸さん来てるよ。行ってあげなよ」
「え! あ、いや、うん……」
「じゃあ、私、応援に戻るから」

 野暮なことはしたくないので、しどろもどろの広瀬くんをおいてささっと人波に紛れた。顔を赤くしていたけれど、熱中症だろうか。何にせよ、広瀬くんが居るし、大丈夫だろう。


「彼女がね、ぼくら、お似合いだって」
「……知ってるわ。だって康一くんったら、エコーズでわたしに貼り付けるんですもの」
「う、うん、思わず……(だってすごい顔してこっち見てたから、危ないかと思ったなんて言えないけどさ)」



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