アレッシーモード・パニック
―パターン:空条承太郎― (簡易主人公説明


 あのスタンドは神だと思った。そして咄嗟にアイツのスタンドを自分のスタンド、BBBで記録した私も天才だと思った。


「ぎゃぁぁぁ! 可愛いぃぃぃぃ!」
「うわわわっ!」

 今、私の腕の中には天使が居る。いや、比喩ですけど、本当に天使みたいに可愛い男の子。エメラルドの瞳は長い睫に包まれて、黒髪は癖があって柔らかい。ふっくらとした頬は肌理細かく、ほんのりと桃色をしていて愛らしい。

「あぁぁ、可愛い可愛い可愛い、食べちゃいたい」
「や、やめろよぉ」

 めいっぱい手を突っ張ったってたいした抵抗にはならないけど、それすらも可愛くて顔が緩む。膝の上に抱き上げたまま、戸惑う顔をニヤニヤ眺めていたら、後頭部にそれなりの衝撃と、軽い破裂音に似た音。

「痛い!」
「いい加減にしてやれって。見てるこっちが辛いわ」
「うぐぐ、ポルナレフぅ〜、何すんのよぉ〜」

 私の頭をスリッパで叩いたのは、ある意味この状態の発端者であるポルナレフだった。片手を後頭部に押さえる為に離してしまったため、私の天使はズルズルと服の裾を引きずりながら、膝の上から逃げてしまった。

「あ! 酷い、そんな逃げなくても……」
「あんだけもみくちゃにされちゃ、嫌にもなるだろ」
「ポルナレフの所為で逃げちゃったんだからね!」
「何でだよ!」

 言い争う私たちから距離を置いて、ぶかぶかの学帽のつばの下から此方を睨むエメラルド。意志の強そうなその瞳は、この歳からやる時はやる男だったのだと思い知らされる。

「怒らないでよ、ねぇ、承太郎くん」


 事の発端は、行方不明になった保護者コンビを待ちぼうけしていた私たち、からさらに迷子になったポルナレフを見つけたところから。彼は、セト神を担うスタンド使い、アレッシーによって、なんとまぁ子供の姿にされていたのだ。
 その後、承太郎や私をも狙ってきたアレッシーは、子供の承太郎にボッコボコにやられ、戻った二人にもフルボッコにされと、かなり酷い目にあっていた。
 さて、その中で私は何をしていたかと言うと、条件反射的にアレッシーのスタンドに触れた瞬間、自分のスタンド「BBB」でそのスタンドを「記録」していた。おかげで子供にはならなかったけれど、だからといって戦闘に役に立つわけでもないのでその辺りは割愛。とりあえず全員無事に合流する事ができた。
 しかし事が落ち着いた頃、私はひとつの欲に囚われていた。一人残った宿屋の食堂にて、黙って手元の本を開く。百科辞典ほどもある革張りの洋書は、見た目に反して私を苦しめるような重さは無い。開いたページに書かれているのは、あのスタンドの図と情報。それに触れて、にんまりと笑ってしまう。

「コピー」

 小さく呟けば、ページの文字が触れた指先から腕に這い登り染み込んでくる。それも一瞬。後には先程と変わらないページがあるばかり。
 しかしこれで準備は完了だ。
 私は意気揚々と承太郎たちの部屋へと乗り込んでいった。


「そして今に至るわけです」
「何言ってんだ? ついに頭も駄目になったか」
「頭「も」って何よ、「も」って。他に何処があるってのよ。ていうか駄目になってないし!」
「あー、ハイハイ。そろそろ承太郎を戻してやれよ」
「もうちょっとだけ! だってあんな天使、滅多にお目にかかれないじゃない!」

 そう、今はベッドを挟んで反対側から私を睨んでるのが、今回記録したスタンド能力で子供にしてしまった承太郎、いや承太郎くん、多分5歳くらい。だって、ものすごく可愛かったのだ、アレッシーに子供にされた承太郎は。(でも変わらず強かったけど。スタンドないのに)だから、やってしまった。

「反省はしている。だが後悔はしていない」
「アホか」
「お前ら、なぁにを騒いどるんじゃ」

 承太郎くんからは睨まれ、ポル助からは馬鹿にされていると、ジョセフさんが部屋に入ってきた。

「げっ、ジョセフさん」
「なんじゃ、葉子。何か疚しいことをやっておったな?」
「えぇ〜と……」
「おじいちゃん!」
「むぉ?」

 ジト目で見るジョセフさんに私がたじたじになっていると、響いた天使の声。見れば承太郎くんがジョセフさんに飛びついていた。

「な、なんじゃ?! むっ、この学帽……承太郎か?!」
「なんと……。一体何があったんです?」

 ジョセフさんが承太郎くんを抱き上げる。小さくなって記憶が曖昧でも、やっぱりおじいちゃんの事はわかるんだなぁ、なんてのんきな事を言ってる場合じゃない。後ろから着いてきたらしいアヴドゥルさんにまで見つかってしまったのだ。これはどう言い逃れをするべきかと冷や汗をかいている私の横で、ポルナレフが思いっきり私を裏切りやがった。

「決まってんだろー。そりゃ、コイツの仕業だ」
「ポルナレフゥ〜〜! 裏切り者!」
「葉子、喧嘩は後だ。何故こんなことをした?」
「うっ……」

 ポルナレフに飛びかかろうとしたところで、十字軍のお父さんことアヴドゥルさんに睨まれて小さくなる。アヴさん、いつもは優しいけど、今のこの顔はお説教モードだ。

「……今日、アレッシーってスタンド使いに会ったって言ったでしょ? その時、ポルナレフと承太郎が子供になって、それがね、超可愛かったの! もうすんごく! 可愛かったのよ!」
「だから?」
「も、もう一回、見たくて……」

 アヴドゥルさんが深い深いため息を吐いたのが聞こえて、また少し縮こまる。

「葉子、今はふざけてる場合じゃない事はわかっているな? 君のスタンドは、こんな悪戯をするためにある訳じゃない。だいたい、承太郎は最近になってスタンドが発現したんだ。あの状態で敵に襲われたらどうなるか、今日の戦いでよくわかっているだろう」
「……承太郎なら、大丈夫だもん」

 7歳児にボコボコにされてるアレッシーを見ていたから、思わずそんな屁理屈を捏ねると、また大きなため息。

「痛い!」
「屁理屈を捏ねるんじゃない!」

 アヴドゥルさんに頭をぶたれた。じんわり痛い頭を涙目で押さえながら、余計に素直に謝り辛くて口をひん曲げる私、可愛くないなぁ。拳骨じゃなくて、平手だったアヴドゥルさんの優しさだってわかってるのに、高校生にもなって叱られて素直に謝れないなんて。

「うぅ〜……」
「泣けば良いってものでは……」
「やめろぉ!」
「「え?!」」

 急に聞こえた甲高い声に、私はぽかんとする。一方、アヴドゥルさんは飛んできた小さな拳を掌で受け止めていた。

「女の子を、泣かせてんじゃねぇぜ!」
「じょ、承太郎?!」

 どうやら、叱られていた私がベソをかき始めた為、虐められてると思って助けてくれたらしい。捕まった拳を収め、私を背中に庇う勇ましい天使の姿に、キュン死にしそうです。

「はぁ……、承太郎、私は虐めていた訳じゃない」
「そうだよ、承太郎。私が悪い事をしたから、叱られたの……」
「本当に?」

 私とアヴドゥルさんを確かめるように確認し、二人が頷くのを見るとフンと鼻を鳴らして腕を組む。

「だったら、謝らなきゃだぜ、おねえちゃん」
「うぇ?! あ、う、うん、そうだね! ごめんなさい、アヴドゥルさん!」
「いや、わかったなら良い」

 びっくりして、勢いで謝る事に成功。ついでに涙も引っ込んだ。とんでもない破壊力だよ、承太郎くんの「おねえちゃん」は!
 可愛さに窒息しそうになっていると、承太郎くんを逃がしてから何だかんだとベッドに座ったままの私のすぐ傍に、天使が立った。何だろうかと、座っていても少し低い彼を見ていると、その小さな手が伸ばされた。

「もう、泣いてねぇな?」
「え、お、うん」

 ふくふくと柔らかい手が、目じりに残っていた涙を拭ってくれる。

「良かった」

 ふわりと、あの承太郎からは想像できないほど柔らかく、可愛い笑顔を見せつけられた私は耐えきれるはずもなく。

「うわぁぁぁぁ! ジョセフさん! アンタ孫にどういう教育してんの何あの天然タラシあの歳でぇぇぇ!」
「おっ、落ち着かんか、葉子! わしの所為じゃないじゃろ?!」
「葉子、落ち着くんだ! ジョースターさんの首が締まってるぞ!」

 気が付いたらベッドから転げ落ち、そのままジョセフさんへ突っ込んでその胸倉を引っ掴んでいた。
 ジョースターさんの言う事もわからんでもないが、あの歳で女の子を守って慰めてって何アイツ本当にMr.パーフェクトか!
 ジョセフさんやらアヴドゥルさんやらにどうどうと馬のように宥められ、よやく落ち着いてBBBを手にする。

「なんだ、今度は素直だな」
「何よ、アヴドゥルさんが怒ったくせに。私だって反省ぐらいしますー」
「そうだったな。いつもそう素直だったら良いんだが」
「あーあー、聞こえないー」

 耳を塞ぎながら、私から解放されたジョセフさんに抱っこされている承太郎くんへと逃げるように駆け寄る。あ、ジョセフさんも満更ではないな、この顔は。追って近くへ来たアヴドゥルさんも、今は苦笑して見守る体勢だし。

「可愛いよね〜〜」
「うむ、可愛いな」

 あははうふふと眺めていたら、おじいちゃんっこ承太郎くんのほっぺを突いていたポルナレフがそう言えば、とその指で私を指差した。人を二度も指差すんじゃない。

「承太郎、お前、アイツのこと嫌がってたのに庇うなんてよぉ。意外と女好きか?」
「ポルナレフ! 人の傷抉ってんじゃないわよ!」

 忘れたわけじゃない。最初に抱きしめてた時、思いっきり手を突っぱねて逃げられて……。逞しい私のハートはそれなりに傷ついてんのよ。
 こっちに向けられた指を掴んで圧し折ってやろうかと歩み寄った時、聞こえたのは天使の声。

「別に、嫌とは言ってねーぜ。だけど、男が女の子にだっこされてたら、かっこ悪いんだぜ」
「ジョセフさん、承太郎くんこのままで良いですか」
「駄目に決っとるじゃろうが」

 だって物凄い可愛い。もうどうしてコレがアレになるのかわからないよ。

「わかってますってば。じゃぁ、戻しますからね」
「戻す? なんのことだ?」
「うむ、久々に懐かしいものを見せて貰ったのは感謝しようかの」
「はいはい。それじゃぁ、承太郎くん、またね」

 最後に一度だけ頭を撫でたら、くすぐったそうな笑顔を見せてくれた。


「おう、葉子。覚悟はできてんだろうな?」
「ひっ?! こっ、コピ……」
「させるかオラァッ!」
「ぎゃぁぁぁ! ごめんなさいぃぃ!」

 元に戻した途端、目の前に仁王立ちした承太郎(+スタプラ)にオラオラで追いかけられる羽目になった。反省してるんだから許してよね!
 逃げるのに必死で、何やら楽しそうに話してる三人の声を聞く余裕なんてなかった。っていうか助けろよ!


「承太郎のアレは、照れ隠しですね」
「あぁ、全く当てる気が無いのが丸わかりじゃしのう」
「ははは! まぁ、あんな可愛いのみられちまったんじゃぁなぁ」


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簡易主人公説明

名前  :飯野葉子
スタンド:バンドブック・ブラック[禁書の黒]Banned Book Black(略式表記:BBB)
ビジョン:ボインゴのように冊子型。黒い革張りの洋書のような形。
(イメージはブリタニカ百科事典)
本としてはかなりの大きさであるが、重さは無いため、片手で持つ事も可能。
スタンド自体の攻撃力・移動能力はない。ちょっとした鈍器にはなる。
能力:スタンド能力の記録(レコード)、模倣(コピー)
詳細:
【レコード】相手のスタンド能力を本状のスタンドに記録する。
ただし、スタンドを発現した状態で葉子が対象のスタンドに触れなければならない。
【コピー】記録したスタンド能力を葉子が使えるようになる。
コピー能力は「葉子が」スタンド能力を使うため、「葉子自身が」行動しなければならない。
(例:チャリオッツ⇒葉子が剣を使う、スタープラチナ⇒葉子が殴る、マジシャン⇒葉子が火を吹く等)
わりと危険かつスタンド能力によっては気持ち悪い。
(例:ハイエロファント、ハーミット⇒体が触手・茨になる等)
また、威力はやや落ちる。
星屑十字軍加入経緯:
生まれつきのスタンド使いだったが、能力・ビジョン共に地味だった為、特に支障なく生活。最近現れた承太郎のスタンドに勝手に触れ記録、目撃した花京院戦で思わず模倣して応戦してしまい、承太郎に捕獲されそのまま空条家へ。その流れで戦力不足の十字軍に強制加入からのエジプトへ強制連行。

▲文頭

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