02


カツカツ、カツカツと靴を鳴らして歩く音と共に、いい匂いが横を通り過ぎた。さっきまで僕にちやほやしていた取り巻きも、その時ばかりは僕から目をそらし、匂いの方を向いている。はらり、何かが落ちる。しおりだった。それを僕が拾うと、隣にいた名前も知らない女が“貸して!”と言って取り上げ、匂いの元に走り去る。

「あ、あの!」
「何かしら」
「こ、これ!落ちました!」

そう言って女がしおりを渡せば、持っていた本を見て、“ありがとう”と言った。

「あら、あなた…リボンが曲がってるわ」

“折角可愛くしているのに、そのままだと台無しよ”と、女のリボンを直し、颯爽と談話室から出て行く。そして、奴がいなくなった後始まるのは奴の話や煩い女の悲鳴。

「ど、どうしよう!ローヴェンス様にリボン直してもらったわ!」
「見ていたよ!羨ましい!」

それは僕がしおりを拾ったからでお前がそれを奪ったからであって、本来は僕が奴に何かしてもらうたんじゃ…って何考えているんだ。

「クレアって本当にいい女だよなー」
「あーわかる。スタイルもいいしなー」
「加えて家柄も上位だろ?」
「性格も顔も体も家柄も申し分ないとか…」

こっちは下世話な話で盛り上がる男共。まったく面白くない

「誘ってみようかな、俺」
「やめろ!」

ハッとした時はもう周りが僕の方を向いていた。そしてヒソヒソと話を始め出す。その空気に耐えられなくて僕も急いで談話室を後にした。カツカツ、カツカツ…廊下に出ると遠くから靴を鳴らす音がする。そして時々悲鳴も聞こえた。廊下を歩く聞こえるのは、奴の話。どいつもコイツも奴の話題ばかりだ。面白くない。アイツは、クレア・ローヴェンスは僕の婚約者なんだぞ?!まあ、僕もそのことを知ったのは最近で、奴と衝撃的な出会い方をしてから数日後、父上に呼ばれて晩餐会に行った。社交界は苦手だ。いい顔をするのは意外と疲れるんだ。休憩がてらにホールを歩いていると、誰かにぶつかる。それだけならいいが、冷たいものが当たった。水だ。

「あらっ?」

頭上から降ってくる言葉にカッとなって“どこを見ているんだ!”と声を思わず荒げた。“ごめんなさい”その言葉が普通1番だろう。ぶつかっておいて、その対応は何だと思っていれば女だった。僕を知っているようで、“ごめんなさいね、Jr”とハンカチを取り出して拭こうとしてくる。その手を払い退けて怒鳴った。

「貴様…僕が誰か分かっているのか?」
「マルフォイJrよ?」
「この仕打ち忘れないからな」

近くに居たボーイからタオルを貰い、父上に報告しようとその場を立ち去ろうとした時、遠くから“ドラコ”と言う低い声がした。

「ドラコ、何をしている」
「父上!聞いてください!この女が…」
「…ドラコ!」
「っ!」

突然声を荒げた父上にビックリしていると僕の横をすり抜け、女の前で頭を下げた。あの父上が、だ。

「これはこれは、ミス ローヴェンス…私の息子が粗粗を…」
「ローヴェンス?!」

声を上げると父上は僕を睨む。ローヴェンス、その名前を聞いてよく顔を改めて見た。奇人クレア・ローヴェンスに似ている…化粧で分からなかった。こんなに綺麗だったか?

「あら?ありがとう」
「…ドラコ、何でも口に直ぐ出すな」

父上と奴に言われて顔が熱くなる。そして紹介された。“お前の婚約者になる人だ”と。最悪な出会い方、最悪な結末。見据えていた未来な筈なのに、あっさりその結末を迎えた。

「マルフォイJr」

いつの間にか足は奴の声がする方に向かっていた。“どうしたのかしら?”凛とした声が響く。何を答えたらいいかわからなくて立ちすくんでいると、奴から歩み寄って来た。そして“行きましょうか?”と手を引かれる。黄色い悲鳴が聞こえる中、僕はその手を取っていた。暫く歩いて森の中。普段は怖いと思うここも不思議と怖さは感じない。“着いた!”奴が立ち止まる。そして気づく、手を繋いだままだったことに。

「っ離せ!」
「あら」

離した手が宙を舞った。少し乱暴に離してしまっただろうか?そんなことを思いながら手をさする。

「き、気安く触るな!いくら婚約者だからって、節度をわきまえろ」
「ああ、その話だけど…」

“丁重にお断りしますわ”風が舞い、木の葉が揺れる。僕の時が止まった





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