絶対領域犯してく純情な感情


「名前ー!」

挨拶や話し声が行き交う海常高校の玄関で靴を脱いでいれば、後ろから声をかけられた。振り返らなくても分かる。由孝だ。だからあたしは振り返らずに、“何、由孝”と言いながら靴を脱いだ

「よく俺だって分かったな」
「何年幼なじみやってると思ってんの。分かるわよ」
「それより名前」
「うん?」

靴を下駄箱に仕舞いながら振り返れば、珍しく真剣な顔つきの由孝が目に入る

「またかわいい子でも居た?」
「名前が…」
「私が?」
「名前が靴脱いでる仕草、パンツが見えるか見えないか微妙ですごいグッときたから付き合おう」
「…歯ぁ食いしばれ」
「ちょっと!なんで怒ってるの!褒めたのに!あ、黄瀬助けて!」
「ちょ、森山先輩いきなりなんスか!あ、名字先輩、おはようございます」
「黄瀬くん、そこのアホちょっと押さえてて」
「え?はいっス」
「黄瀬!俺を売るな!」
「…名字先輩には逆らわない方がいいって学習したっスから」
「いい子ね黄瀬くん。さて、由孝。ミンチとミンチとミンチ…どれがいい?」
「全部ミンチ!」
「…お前ら朝から騒がしいな」
「あ、笠松くん」

由孝の胸倉を掴んでビンタしようとしてた時に隣を通りかかった笠松くんに“まぁ落ち着け”と止められる。仕方ないから由孝を離して教室に行こうとすれば由孝が後をついてきた

「あんたクラス違うでしょ」
「いや、名前…あのさ」

また真剣な顔つき。ああ、あたし、あなたのその顔苦手。胸がぎゅーってなるから、苦しいから

「パンツは見えるより見えるか見えないかのギリギリがいいよな!付き合おう」
「何の話だ…つか付き合わないから」

コイツ、語尾に必ず“付き合おう”って付けるけどそれしか言うこと無いのかな?てか誰にでも言ってるくせに…ああ、あたし何でこんなことで頭悩ませてんの?ああ、頭痛い。なんて思いながら部活時間になった。たまには幼なじみの勇姿でも見に行くかと思って重い腰を上げて体育館に向かった。相変わらず体育館は女子の声援で溢れている。だってあの、黄瀬涼太が居るんだもの。仕方ないよね、なんて思いながら中に入ってお目当ての人物を探していたら、“危ない!”と言う声。見ればボールがあたし目掛けて飛んでくる。やばい、ぶつかる!そう思って目を閉じた次の瞬間、痛みは襲って来なかった。代わりに聞こえたのは“大丈夫?”と言う聞き覚えのある声…

「よし、たか…」
「名前、怪我はない?」
「あたしは大丈夫だけど…由孝は?」
「俺は…」

そう由孝が答えようとした時にふらりと揺れる体。笠松くんの“大丈夫か!?”と言う声と共にみんなが集まってくる。どうしよう、当たり所が悪かったのかな…泣き出しそうな顔をすれば、ふらふらしている由孝は“そんな顔すんなよ”って頭をなでてきた

「保健室行こ?由孝。ごめんね」
「いいって…笠松ちょっと行ってくるな」
「ああ、ゆっくり休んでこい」

そしてやってきた保健室。先生が居なかったから、どうしたらいいかわかんなくて、とりあえずタオルを冷やして由孝の頭に当てた

「大丈夫?ごめんね」
「そんな顔しないでったら。大丈夫だから」
「でもあたしのせいだし…」
「俺はお前守れて良かったよ」
「な、に言ってるのこんな時まで」

顔を逸らせば、由孝があたしの腕を引っ張った。そして近づく顔、目が反らせない

「俺、本気だからな」
「な、何が?」
「名前と付き合いたい。ずっとずっと、名前が好きだった」
「そん、な、こと…」
「好きだ」
「何度も言わないで…」

だってあたしは分からないから。好きとか…でも由孝が他の人に告白とか、かわいい女の子がいたってテンション上げて話してくるのは嫌だったな。由孝を好き?あたしが…まさか。なんて考えていれば由孝が何故かキス待ち顔をしていた。だからあたしは思いっ切りビンタした

「いってぇ!名前何すんの!」
「ごめん。キモかったから」
「キモかったからとかヒドくない!?仮にも彼氏だよ!?」
「初耳」
「名前、俺に絆されてなかった?ねぇ?今キスするタイミングだったでしょ!?」
「知らんわ」
「はー…名前」
「な、何…」

真剣な顔つきの由孝。今日何度目かな。その顔やめてったら、ドキドキするから

「さっきボール飛んでくるときあったじゃん?」
「う、うん」
「その時名前の絶対領域が最高にエロかった。付き合ってくれ」
「…ぶっ飛ばすぞ」

そう言ってタオルを顔に投げつけてやった。ああ、こんな奴にドキドキするとか有り得ない!



end





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