それは甘い蜜


私達の恋愛は甘くない。甘い甘い、砂糖菓子のような恋愛に憧れているワケじゃない。けれどもたまには甘い日常を過ごしてみたいと思うのはわがままなんだろうか

「花宮」

教室のドアを軽く叩いて、お目当ての人の名前を呼べば、一瞬、ふと眉が眉間に寄った後、笑顔で近付いてきた

「…これ、借りてた辞書。返しに来たから」
「ああ」
「じゃあそれだけ」
「おい」
「何?」

さらり、花宮の髪が揺れた。綺麗な黒髪だなーなんて思っていたら、小さく舌打ちされて、“聞いてねえだろ”と言われた

「聞いてるよ」
「嘘付け。聞いてなかったな」
「で、何」
「今日お前のとこ行くからな」

そう言われて、これはなんかあるなと思った。私達は誰もが羨む理想のカップルらしい。花宮はあんな性格最悪だけれどバスケセンスあるし、頭もいいし、教師やクラスメイトの前では猫かぶりが完璧だから“素敵な彼氏だねー”なんて言われることが多々ある。私自身も自慢じゃないけど成績はいいし、粗相もない。先生方にだって褒められる。そんな私達がなんで付き合ってるか…と言うのは許嫁なんて言う現代には珍しい制度があるが所以である。めんどくさいことこの上ないが、花宮は私を離さないと思う。そんな自信どこから沸くかと言えば私が霧崎第一高校の理事長令嬢だからだろう。理事長に直接取り入ったも同然だからである。だから花宮は私を離さないと思う。私自身も花宮がどれだけひねくれているのか興味あったし、隙あらばそのポーカーフェイス崩したいと思っていた。そんな歪んだ関係の私達に普通の恋愛なんか出来るわけないって分かっているけれど、人は夢を見る生き物だ。夢見たっていいよね?なんて思いながら部屋にやって来た花宮を試しに抱きしめてみた

「は…!?」

練習帰りだもんね、どきどき言ってるよ。そのあとゆっくり唇に触れれば、珍しく花宮が動揺をしている。なんだこれ!すごく楽しい!そんなこと思っていれば、不意に捕まれた腰、何だろうと思ったら不機嫌そうな花宮が映った

「覚悟はできてんだろうな名字…」
「出来るもんなら?童貞くん」
「ぶっつぶすぞ」
「花宮にできんのー?」

なんてけらけら笑っていたら突然のキス。長い長いキスでどうにかなりそうだったのをなんとか口を離して呼吸をめいいっぱいしたそれを見て花宮が“滑稽だな”と言ってくる

「何よ」
「お前のポーカーフェイスは崩れたぜ?」
「だから?」
「そろそろ素になって話さねーか」
「花宮と真剣な話とか寒気するわ」
「ふざけんなよ。なんでお前のうちに毎日来てると思ってんだ」
「セックス?」
「したことねーだろ!」
「じゃあ何」
「お前と俺は仮にも許嫁なんだから仲良くしとかねーといけねーのにあの態度は何だ!ちっ腹立つ」

ああ、この人こんなこと考えてたんだ。頭のいい人は大変だなぁなんて思いながら、花宮を抱きしめれば激しい心音が聞こえた

「ふはっ情けねー女1人にどきどきするとか」
「いんじゃない?あたしたち夫婦みたいなもんだし」
「はぁ!?」
「あたしは花宮好きだし」

そう聞いて花宮は肩をふるわせて笑った

「やっといったな好きって。バカバカしい」
「そのバカバカしさで落ち込んでたのは誰だよ」
「ふはっ演技に決まってんだろバァーカ」

なんて言ってるけれど花宮の心音はますます高くなる。体は嘘をつけないね。そんなかわいい花宮に免じて、見栄に付き合ってやるか。甘い恋愛なんか無理、でも花宮といると楽しいのも事実。だから今はこのままでいいかな


Happy Birthday 花宮






prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -