涙色音色


ずっとずっと願ってた。君に振り向いてもらえる事を。いつか、頑張れば、必ず君に振り向いてもらえると思っていた。でもね、今君の隣で笑っているのは私じゃないの

「名前」

名前を呼ばれただけで心臓が跳ね上がる。平静を装って振り向いても、脈拍が早いのが分かるくらいドキドキしている私。君に知られてないように、でも、知って欲しいから近づいた

「高尾くん」
「名前、ごっめん!遅くなった…真ちゃんまだ来てないよね?」
「大丈夫よ。そんなに慌てないで。私も今来たところ」

今日は3人でお買い物。休日にまで高尾くんといられるなんて幸せ、理由はどうであれ、ね

「真ちゃんおっせーなー。もしかして迷子?」
「緑間くん、目立つからきっとすぐ見つかるよ」
「何勝手に決めつけているのだよ」
「あ、緑間くん」

眉間に皺を寄せた緑間くんが私達の前に現れる。“遅かったね”と声をかけながら思ったのは、2人の時間なんて呆気ないものだなと思ったこと。別に緑間くんに期待したわけじゃないけれど、もうちょっとわかってくれてもいいと思う。まあ、鈍感な所がまた魅力的なんだろうけどね

「どこ行くの?」
「とりあえず飯!」
「高尾くんお腹空いたの。まあ、とりあえず移動しよっか」
「何故だ。場所を決めてから動いた方が効率がいいのだよ」
「いや、あの、2人いると目立つし…」
「ム」

かっこいい2人、周りには女子の群れ。みんなキラキラした視線を投げかけてくる

「俺達目立ってるねぇ」
「2人共かっこいいからね」
「名前もかわいいけどなー?」
「寝言は寝て言って」
「冷たい」

高尾くんは何を言い出すんだろう…私なんか可愛さの欠片も無いのに。とりあえず場所を移動しようと動けば、キラキラした視線と痛い視線を投げかけられる。頑張れ、名前これは2人と仲良くなった時にわかっていたこと。こんな事じゃへこたれないよ!と言い聞かせて歩けば、高尾くんが足を止める。ショーウィンドウに飾られたかわいい雑貨を見て高尾くんは店に入る。その時思い出す当初の目的…今回3人でお出かけしたのは高尾くんの彼女さんへのプレゼントを買いに来たからだ。付き合って間もない2人はとても幸せそうで、ずっとずっと好きだったのに私の入る隙間なんかなくて。ただ、傍から見るしか出来ないの

「どれがいいかなー…なあ、名前これは?」

そんな私の気持ちを他所に高尾くんは無邪気に幸せそうにプレゼントを選ぶ。あぁ、いいな。彼女さんが羨ましいな。幸せだなぁ。いいなぁ。気持ちは溢れて泣きそうだけど、ぐっとこらえて笑顔を作って隣へ行く

「これ、かわいい」
「こーゆーの、好き?」
「うん。女の子は好きだと思う」
「へー!ありがとうな!」
「どういたしまして」
「じゃあ、真ちゃん、お揃いで買おうぜ」
「どうしてそうなるのだよ」

呆れ顔の緑間くんにクスクス笑いながら、高尾くんは意気揚々とレジに向かった。ため息が出る。こんな顔してちゃいけないのにね。その後ご飯食べても美味しくなんかない。味のないものを食べて笑顔を作る。私も演技派になったなぁ、なんてしみじみ思って帰り道、さよならの時間だ。辛いけど高尾くんと居れた時間は幸せだった。“名前”不意に名前を呼ばれて高尾くんを見れば、小さな箱を手渡される

「え?」
「開けてみ?」

中を開ければオルゴール。綺麗な音色に合わせて箱の中の人形が回った

「これ…」
「今日付き合ってくれたお礼。あいつと付き合えたのも名前のおかげだからな」

“ありがとう”そう言って去る高尾くんに涙が出そうだった

「いいのか」

帰り道、無言だった緑間くんが口を開く

「何が」
「高尾のことなのだよ。好いているのだろう?」
「気づいてたんだ」
「お前を見ればわかる。何年の付き合いだと思っているのだよ」
「好きだよ。でもね、私は高尾くんの笑顔が好きなの。壊したくないの」
「…自分が幸せにするとか言えないのか?」
「私じゃ無理だよ」
「お前は…」

何かを言いかけてやめた緑間くんは、少しだけ空を見て背中を向けた

「無理するな。背中くらいいくらでも貸してやるのだよ」

そう言われて気づく、泣いていることに。高尾くん、高尾くん大好き。ごめんね、好きになって、ごめんね、想ってしまって

「ごめ、んね…」


大好きでした


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