浸食


「名前」

名前を呼ばれて、返事をしようとした瞬間、視界が揺れた。それによってマニキュアがぐちゃっとなった。背中にあたたかい温もりと、少しの痛み、何かが私にぶつかった。まあその何かは言わなくても分かる。

「原、重いんだけど」
「だって乗ってるもん」
「マニキュアずれたじゃない」
「そーんなことよりさあ…」

ちゅ、と言う効果音と共に首筋に刺激が走った。そして腰に回される腕。

「…やめて」
「なんで」
「気分乗らない」

腰に回されている腕を解いて、除光液をコットンにつけて、はみ出たマニキュアを拭う。真っ赤な爪は薄ピンクに戻って、コットンに赤色が写った。“もういい”私から離れて拗ねたような素振りを見せる原。絶対わざとだ。その様子、いつまで続くかな、なんて思いながら汚れたコットンを見た。真っ赤に汚れたその白はまるで私の気持ちみたいだった。始まりは原の気まぐれだった。“ねえ、俺等付き合ってみない?”コイツは何を言ってるんだ。思わず飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになった。頭が追いつかず、固まっていれば、次は唇に刺激が走った。キスされたんだ。展開早くて本当について行けなくなっていたら、“そんなに見ないで”なんて、笑っていた。ちなみにここは学校の廊下。みんなが声をあげて私達の様子を見ていた。何だこの茶番は!なんて思っていれば、“俺、本気だよ”なんて言われたけど身長差で分かる。いつも隠れている目が私を見下していた。原はクズだけどバスケ部で、私は底辺の人間で、いつもいつも教師に注意されたり、追いかけられる側のバカな人間で…コイツ私をからかいに来たんだろうか?そう思ったら無性に腹が立った訳で…とりあえず付き合ってみるか、のノリで付き合ったんだっけ?元々快楽主義者の私だし、身体の相性は割と良かったと思う、心は満たされないのはいつものことだと思って今日も原の家に遊びに来たんだよね。でも最近やたらと絡んでくる。構ってくる。いったい何?

「最近やたら構ってくるとか思ってるよな、今」
「うん」
「なあ、素直すぎ」

“少しは嘘つくこと覚えろって”なんて笑う原、素直さが売りだからこれは直せないな何て思っていれば“あのさ、いい加減気づけよ”なんて、腕を取られた。その手、今、マニキュア塗ったばっかりだ。また乱れる。

「…汚れるよ?」
「いいよ」
「じゃあ乱れるから離して」
「嫌」

“こうでもしないと名前は振りむいてくれないからな”そう言ったと思ったら髪をかき上げて、私を見つめる原。その目は…

「なんで泣きそうなの?」
「お前がいつまでたっても分かってくれないから」
「分からない?」
「分かってねーよ。俺がこんなにお前を好きなこと」

抱きしめられた拍子に除光液が倒れた。カーペットに染みる除光液は今の私達みたいだ。原が私の心を浸食していくから。やめてやめて。私は底辺の人間で、原とは釣り合わない人間で、原のことだって遊んで捨てようと思ってて…

「原…」

私はなんで泣いてるの?

「言ったこと無かったよな、好きだって」
「す、き?」
「ああ」

抱きついた私は原のあたたかさでまた泣いた。今原がどんな顔してるか見えないけれど、例え弄ばれただけどろうと、原の気まぐれだったとしても、今流してる涙は真実だと思うから…

「愛してる」

それがどんなに酷い言葉だったとしても


end


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