そして目にした寒椿


ひらり、椿の花弁が白い雪の上に落ちた。その真っ赤な花弁を拾えば“どうした?”と声をかけられる

「花びらが落ちたの」
「何の花びら?」
「椿」

この時期に咲くから多分寒椿だろう、その花びらを拾って見せれば、“綺麗だな”って言われた。だから“そうだね”と返事をして、笑ってみせると“違うって”と声がする

「何が?」
「お前が綺麗、なの!」

ちょっぴり顔を赤くして、マフラーで顔を埋める高尾くんがそう言った。だから私はそんなこと言われたの初めてだな、って思いながら素直に“ありがとう”と言った

「高尾くんの方が綺麗だけどね」
「綺麗?ぶはっ、俺が?」
「うん、頑張り屋さんだし」
「頑張り屋と綺麗はイコールで繋がんの?」
「…例え、努力が実を結ばなくても、その頑張っていた証は確かに胸に刻まれてるし、私も分かっているから。だから、頑張ることは美しく、儚く、綺麗だよ?」

私、知ってるよ…高尾くんが毎日毎日遅くまで練習して、あの試合の悔しさを、先輩方が居なくなってしまう悲しさを消化しようとしていることを…“ずっとずっと、私は高尾和成のファンだよ”そう言えば、高尾くんは儚い笑顔を見せて、私の手に触れた

「手、真っ赤じゃん。手袋しないから」
「うん、そうだね」
「それにさ、ファンじゃなくて、これからもパートナーとして側にいてよ」
「…パートナーは緑間くんじゃないの?」
「違うよ、彼女っ!彼女として側にいてよ」

こつん、高尾くんの額が当たった。そして抱き締められて意味が分かる。だから私はびっくりして高尾くんから離れてしまった

「いや、あの、私は高尾くんを影から支えたいってゆーか…いや、嬉しいんだけど、他にもお似合いの人がいるってゆーか…」
「ふはっ!なに戸惑ってんの」
「…冗談?」
「いや、本気。本気で好きだよ」

“知ってる?寒椿の花言葉は謙譲だよ”って、高尾くんは寒椿を取り、私に差し出した

「謙譲、へりくだって譲ることだよね?」
「そうだな。でも俺、こればっかりは譲れねーわ」

“付き合ってよ”そう言って高尾くんは笑った。これはどうやら本気らしい、私も本気で応えなければいけないな…

「高尾くん、嬉しいです」
「いいの。影から応援するんじゃなかったの?」
「あら、譲れないんじゃなかったの?」
「…そうだな」

“ありがとう”そう言って高尾くんは笑う。だから私も笑った。手を差し出されたから触れれば暖かかった。そして冬なのに高尾くん、汗かいてる。よっぽど緊張したんだなぁ、なんて思ってクスクス笑えば、“なんだよー”って手を強く握られた。かわいいね、なんだか私も恥ずかしくなってきてマフラーで顔を埋める。でも手の握る力はさっきよりも強めてみた

「高尾くん」
「何?」
「大好きです」
「俺も」

ゆっくりと顔が近づいてくる。ちらり、目の端を見れば、真っ赤な寒椿が咲いていた

椿



end




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