落ちるように恋をした


※ホスト宮地と社会人

眩しい日差しが差し込んで来て、うっすらと目を開ける。小鳥のさえずりさえ聞こえてくる爽やかな朝なのに身体は鈍器で殴られたような、それでいて胸元には不快な違和感があった。胸元に触れれば谷間にべとつく跡があり、そう言えば昨日このまま寝たんだっけ、と汚れてない手で頭をかいた。髪もひどく痛んでるし、メイクも落としていない
((ひどい顔))
洗面所で自分の顔を見て思わず吹いてしまう。酷い状態、あの人よく私のこと抱けたな、尊敬しちゃうなんて思いながら、タオルを手に取りシャワールームに入った。出会いはただのホストとただのOL、会社で嫌なことがあって、お酒を浴びるように呑みたくて、でも1人じゃ寂しくて…寂しさを埋めるために招かれたその扉をくぐった。煌びやかな夜の世界、みんなにちやほやされて、一躍お姫様になれた気分だった。たくさんの飾られたパネルの中で見つけた蜂蜜色の髪につまらなそうな顔つき…今の私にそっくりだと思って、その人を指名した。名前は【清志】

『ご指名ありがとうございます。清志です』
『あ、名前です』

やってきたホストはパネル写真で見るよりもずっと男前でモデル体型で、正直圧倒された

『俺の顔になんかついてます?』
『いや、何にもついてないけど』
『そう。じゃあなんか飲みます?』

“ここでは飲んで全てを忘れろ”なんて急にタメ口で言われて、でもそんな乱暴な口調も不思議と嫌な感じはしなかった。清志は決して聞き上手じゃなかった。私が愚痴をこぼす度に、“ハハ、お前人生なめてんの?轢くぞ”なんて笑いながら言われた。最初は何よ、このホスト、全然楽しくない。チェンジしようかなって思ったけれど、それでも清志は私の話を終始流したりしないで、真剣に聞いてくれたし、真剣なアドバイスもくれた。だから、変えなかった

『うー!もういっぱい!』
『飲み過ぎ』
『うるさいよーほすとはだまってつげばいいんだよ、おさけ』
『本当に飲み過ぎだっての』
『ねぇ、清志』

“抱いて”
ただ寂しかった。それだけ。清志はその場にいた都合のいい男だった。優良物件だっただけ。どうせホストだし、枕営業だってするだろうし、お金払えば抱いてくれるはずだと思った。でも清志は“アフターか?”と言ったから抱いてくれる気はサラサラ無いらしい。でもなんとか強引にホテルまで連れて行き…朝になった。隣にいない清志。きっと帰ったんだろう。仕事終わったしね、イヤな客だっただろうな、私。でもね、とにかく寂しかったから、この寂しさを埋めたかった、それだけなのに、何でこんなに胸が苦しいんだろう?なんで清志の顔が脳裏に焼き付いて離れないんだろう?

「きよ、し」
「あ?呼んだか?名前」

お風呂上がり、うずくまっていたら清志の姿がそこにあった。あれ?なんでいるの?

「つーかお前いい加減服着ろよ」
ミネラルウォーターを頭にぶつけてきた清志、少し痛いけれど、それ以上に…
「なんでいるの?」
「あ?水買いに行ってきた」

風呂は入ったみたいだな。なんて頭を拭いてくれる清志だけど、全然ついていけない。え、一夜限りの関係じゃ…

「言っとくけど俺、お前抱いてねーから」
「え、シーツも胸元もベトベトだったんだけど」
「それ、お前が酔ってこぼしたカルピスだから」
「カルピス…」
「いいから服着ろ」

そう言って、落ちている服を拾って私に投げてくる清志

「服にもカルピスかかったから、洗っといたぞ」
「あ、ありがとう…」
「気にすんな」

“飯食うか?”なんて着替えてる私に言う宮地、仕事のために寝なくていいの?

「なんで、側にいてくれるの?」
「お前、昨日言ったろ?寂しいって」
「言ってない」
「言ってなくても分かるっつーの。世の中がつまらなそうな顔してっからな」

“正直似てると思ったよ”そう言う清志に、同じ気持ちだったんだと思った。これはきっとホストの作戦かもしれない。けれども私は、その作戦よりも、清志自身の言葉だって信じたい。作り物の清志じゃなくて

「清志、私は…」

一夜限りだったはずの想いが、今、はじけた


end





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