あなたの優しい笑顔にただ絆された


予選大会、あの人は“まぁ、頑張ってくるよー”なんて軽いことを言って頭をなでて行ってしまった。そして試合、私は衝撃的な光景を目の当たりにする

「73対71…まけ、た…?」

誠凛に勝って秀徳と試合だと思っていた。あの人がまだまだバスケができると思っていた。それがどうして…

「およっ?名前ちゃん」

どうしたらいいか分からなかったけれど、足がいつの間にか選手控え室の方に向かっていて、そこで立ちすくんでいたら春日先輩に声をかけられた“どうしたのー?”なんていつもと変わらない様子で…

「先輩、試合見ました」
「ありゃ、そうなんだーなんかかっこわりぃとこ見られたなー」
「そんなこと無いです!かっこよかったです!先輩いつも遅くまで残って練習してて、勉強だって受験生だから大変で、後輩の津川くんの面倒とかも見てて、とにかく、先輩は、先輩は私の誇りで…!」

何を言っているか自分でも分からなかった。もうむちゃくちゃで、涙が止めどなく溢れてきて、先輩の顔なんか見えなくなった。そんな私を春日先輩はぎゅっと抱き締めてくれて“よしよし、ありがとうなー”なんて背中をポンポン叩く。だから私は余計に悲しくなって、しゃくりあげて泣いた

「名前ちゃん泣きすぎじゃねぇ?」
「先輩が泣かないから…」
「変わりに泣いてくれてんのかぁ。本当に名前ちゃんは優しいねぃ…」
「ちゃ、茶化さないでください!」

鼻をずびっとして先輩の顔を見れば、悲しそうに眉を下げて、また抱き締めてきた。そして小さな声で“まだバスケしたかったなあー…”なんて言うから私も先輩を抱き締める

「悔しいなぁ、名前ちゃんをIHに連れて行きたかったのにぃ」
「春日先輩…」
「ごめんよー」

儚く笑う先輩の目には涙がたまっていた。そんな先輩を強く強く抱き締めた。そんなことしか出来ない自分がもどかしかった。それから月日は流れて、先輩は受験勉強に勤しんでいる。私も邪魔をしないように、今まで遊びに行っていた教室も行かなくなったし、一緒に帰ることも無くなった。それを寂しいと感じてるけれど、先輩とは付き合ってる訳じゃなかった。告白もされたことない。ただ、側にいただけ…今日も1人で帰ろうとした時に、不意に名前を呼ばれる

「はぁ、はぁ、名前ちゃん。よかったー間に合ったわー」
「か、すが、せん…ぱい?」
「久しぶりに一緒に帰ろう」

“ダメかなー”なんて聞かれて首を横に振った。だめなわけ無い。ずっと先輩に会いたかった。そうして一緒に帰ることになって、少し歩いた所で春日先輩は足を止める。先輩が見つめる先は体育館。ああ、先輩まだ未練があるんだなってすぐにわかった

「あのなー俺本当はあの時誠凛に勝てると思ってたんよ。少し傲りがあったんだなぁって今考えれば思うんだけどさ…誠凛に勝って、秀徳に勝って、名前ちゃんに言いたいことがあったんさー」
「…言いたいこと?」

そう聞き返せば、春日先輩は小さく笑って私の手を取った。そして“名前ちゃん、好きだわー”と言った

「ずっとずっと好きだったわー。健気で、弱くて、優しい名前ちゃんが。本当は勝って言いたかったんだけどねぃ」
「…先輩っ」
「まーた泣くー。本当に泣き虫なんね、名前ちゃんは」
「嬉し、涙…ですっ!」
「うん、ありがとうなー」

抱き締められてぬくもりが伝わってくる。先輩は強いなぁ、なんて思っていた。でもそうじゃないって分かったあの試合。辛くて、苦しかったのになんで側にいてあげなかったんだろう、私…そうやって言えば“1人で乗り越え無いと、名前ちゃんに好きって言えんかったし、1人になってみないと気づかないこともあったからいいんだよ”なんて笑って私の頭をなでた。やっぱり先輩は強い。そんな強い先輩に依存するように付き合っていいのだろうか…

「先輩、私弱虫ですよ。いいんですか?」
「いいんよ。さっきも言ったけど弱虫な名前ちゃんを守りたいんよ」

そう笑う先輩に私はただ流された



end





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