深海を泳ぐ蝉


※近親相姦

ねぇ、知ってる?蝉って7日しか生きれないんだよ。7日の内に生まれて、恋して、子供作って、本当に忙しいなって思うよね。だからさ大輝、採ったら可哀想だよ…なんて、俺の蝉採りについて来てはそんなことを言っていた姉貴も20歳になった。弟の俺が言うのも何だが、姉貴は本当に絵に描いたようないい女で、まず顔が綺麗だろ?料理が出来るだろ?蝉やザリガニの世話もしてくれるだろ?おっぱいでけーだろ?なんていい所尽くめなのに浮ついた話1つ聞かない。いつもいつも俺のこと優しく起こしてくれて、夜は“おかえり、待ってたよ”なんて1番に出迎えてくれる。そんな優しい姉貴に特別な感情を持ったのは今に始まったことじゃない

「大輝、ご飯だよ」

コンコン、と部屋のドアを叩く音が聞こえて、返事をすれば姉貴が入ってくる。そんな姉貴に“おー”と生返事すれば、“大輝にプレゼント持ってきた”なんて笑顔で部屋に入ってくる

「んだよ、名前姉」
「じゃーん!堀北マイちゃんの限定写真集です!」
「な、それ…どこで…!」
「うふふ。色々頑張ったよお姉ちゃん」

“はい、あげる”と渡された堀北マイちゃん写真集は俺が喉から手が出るほど欲しかったヤツで、お礼とか言う前に1番にしたのは写真集にかかってるビニールを破くことだった

「大輝ー?言うことあるでしょ?」
「…あ?」
「あ、…り?」
「…ありがと」
「よろしい。ほら、ご飯だからあとで読みなよ」

そう言って俺の頭を撫でる姉貴、何故かわかんねーけど、昔から姉貴に触られるのは嫌な感じがしなかった。それどころかもっともっと触れて欲しいと思う

「大輝?」

名前を呼ばれた時にはいつの間にか姉貴の手を掴んでいた。細い手、それに白い。俺と間逆だ

「名前姉」
「何?」

にこっと笑って見せた姉貴をぐいっと引っ張って、抱きしめた。すると一瞬びっくりした姉貴だったけどすぐに、“よしよし”なんて言って背中を軽快なリズムで叩く。その動作が心地よくて目を閉じた

「大輝は子供の頃から甘えただなぁ」
「はぁ…?」
「大輝昔から寝ぼけてあたしに抱きついて来るじゃない」

違う、寝ぼけてなんかいない。わざと、だ。姉貴を抱き締めたくて、触れたくて、こんなに心臓うるせぇのに、呼吸だって覚束無いのに、姉貴は気づかない。弟としか見ない。姉貴、俺は10年以上姉貴に恋してるし、アピールしてるんだぜ?蝉みたいに鳴きまくって、姉貴を振り向かせようと必死なんだぜ?分かってねぇだろ。絶対…

「大輝、あのね…今度あたし、お見合いするの」
「聞いてねぇ」
「今言ったもの。でもね、あたしお見合い…嫌だな」
「…じゃあ断れよ」

姉貴が他の奴と仲良さそうに話すなんて俺だって嫌だ。姉貴、お見合いって結婚する可能性もあるだろ?俺から離れていくのかよ

「…大輝、お見合いしたら寂しい?」

そう言わて、見栄張って“別に”と答えた。本当は嫌に決まってんだろ。いつまでもいつまでも2人で居たい

「本当に?」
「な、に、が…だよ」
「あたしお嫁に行っても寂しくない?」
「見合い、だろ。結婚出来るかわかんねぇくせに」
「…そうだよね」

少しだけ寂しそうな顔をした姉貴はすぐに笑顔になって俺を引き剥がし、手を握って“ご飯冷めちゃう”と言って手を引いた。その1ヶ月後だった。姉貴が結婚して家を出て行くことになったのは。俺は絶望した。姉貴に見捨てられたと思ったからだ。それからは人生がバカらしくなって、姉貴とも話をしなかった。そして迎えた姉貴が引っ越す日、コンコン、と音がして部屋のドアが開いた

「大輝、最後に話があるの」

そう言って入ってきた姉貴。正直顔も見たくなくて、写真集をめくりながら無視を決め込んでいた

「あたしね、結婚決めたの、大輝のためなの」
「…」
「大輝があたしに特別な感情あること知ってたよ」

“あたしも、大輝を愛していたから”
そう言われて思わず顔を上げる。すると姉貴の顔がすぐ側にあって、額にあたたかさがあった。でもそれはすぐに消えた

「名前…姉さ、ん」
「やっと話してくれたね。大輝」

“愛してる”
泣きながら笑ってそれだけ言って姉貴は部屋を出て行った。しばらく呆然とした後、慌てて追いかけると、姉貴は知らねぇ男の側にいる。その光景を見ただけで足が竦んだ。叩いても叩いても動かなくて、ついにはひざを着いてしまう

「名前…ねえ…」

俺は結局、姉貴の優しさに甘えていただけなんだ。姉貴の優しさの海に泳いで、漂っていただけだ。バカだよな、蝉は海では泳げないのにな…結局溺れて死んだんだ



end





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