05



『ねぇ、幸ー鬼って人と同じなんでしょ?』

『違う。姿形は一緒だけど、目の色とか歯の形とかは全く違う…それに』

『それに…?』

『鬼は心が醜い…』


そう言って拳を握りしめながら呟いた幸ちゃんの顔をずっと覚えてる



異世界


落ちる…ぶわっと風を切るようにして、私は真っ逆さまに落ちてる。目を開けると濁った赤と青


「いつまで落ちるんだー…」


もう知らない人から落とされてから結構時間はたったけど、全然着地点は見えてこない。はじめこそ怖かったけど、もうその感情すら浮遊感に馴れちゃってないんですけど…体を起こして握りしめていた携帯を見た、当たり前だけど圏外。落ちたところを見上げても真っ暗で見えない

((てか地面たどり着いたらたどり着いたで私やばい…))

体を思いっきり打ちつけて、そのまま鬼の餌かなぁ…せめて18年間、もう少し友達と遊ぶとか、恋人作るとかすればよかったかなぁ…と、他人事のように今までのことを考えてしまった

((幸ちゃんともっと遊びたかったかも…))

なんて思っていたら突然携帯がなりだした。“どっか押したかな?”って思って画面を見るとそこには【笠松 幸男】びっくりして落としそうになった


「は!?幸ちゃん?」


電波は圏外なのに着信音が鳴り響く…不気味なんだけど!

((え、なにこれ…出るべき?))

困って携帯を握りしめていると、突然空間が歪んで今までは赤と青が入り混じった気味の悪い風景がきれいな空色を思わせるような色に変わった


「きれい…」


それになんだか懐かしい

((なんだろう、この感じ…))

ぼーっと辺りを見回していると突然携帯から幸ちゃんの大声が聞こえた


『はやく出ろよ!』

「ゆ、幸ちゃん!?」

『橋本!お前無事か!?』

「う、うん…一応生きてるけど」

『そうか、よかった…』


また変な奴からの電話だと思ったけど、ちゃんと幸ちゃんの声で少しだけ安心した


『橋本、今から言うことちゃんと聞いてくれるか?』

「うん…よくわからないとこにいる以上、今は幸ちゃんだけが頼りだから」

『ありがとう、青葉…さっきお前を落とした奴、あれが鬼だよ』

「あの子?」

『そう、それで今橋本がいる空間は異世界へ行く通路』

「異世界って、鬼がいっぱいいるの?」

『まぁな…』


やっぱり、この先についても待っているのは地獄なんだ…


『ごめん、橋本。こうなったのは俺の責任だ。だけど俺の力じゃお前を元の世界に戻すことは出来ないんだ…』

「ううん…いいよ。助からないってのはなんとなく分かってたし」


だって超落ちてるし


『いや、俺もあとでそっちに行くから、それまで身を潜めて待っているんだ』

「え!幸ちゃんも来るの!?」

『ああ。ただ今お前が行く世界を歪ませたからちょっと力を蓄えてからいくよ』

「歪ませた…?」

『橋本、今周り何色?』

「さっきまで赤と青だったけどきれいな空色だよ」

『そっか、よかった…ッつ!』

「幸ちゃん!?」


幸ちゃんの痛がる声がしたと思ったら突然電波が悪くなった


『ごめん、もたない…電話切るけど、このままうまく行けば青葉は助かるから、鬼に見つからないようにしろよ』

「え!?え!?幸!?」

『じゃあな…』


そう言って、電話は切れ、私は空色の外壁が出す光に包まれて、意識を失った


「んん…」


気がつくと、緑の生い茂る鮮やかな森の中にいた


「…ここ、どこ?」





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