鈴木先輩と共に帰ったあの日以来鈴木先輩を見ていない。もう先輩不足で俺倒れそうー…なーんて思いながら廊下を歩いてる。調理室のそばの廊下を歩いているといい匂いがした。どっかの学年が、調理実習中なんだろーなーそれか終わったくらいかぁ?腹減ったぁなんて思ってた時だった。ひょこっと現れたその人はご飯の匂いに負けないくらい、いい匂いがした
「あら、高尾くん?」
「…っ!鈴木せんぱっ…!」
「あは、奇遇だねー」
長い髪に映える三角巾に新妻を思わせるようなエプロン姿!やばい!やばい!新妻とかやっぱり俺の奥さ…ぶほぉ!鈴木先輩が奥さんとかおこがまし過ぎるっつーか…とにかく突然の天使光臨でどうしたらいいかわかんねぇよ!
「今あたし調理実習だったんだ」
「そうみたいっすね」
「お菓子作ったの」
“作りすぎたからあげるね”なんて言われて渡されたかわいいカップケーキ。やべぇ、鈴木先輩から物もらった…
((大切にしよー…))
もらった物を見てにやにやするのを抑えながらお礼を言えば、“今日も一緒に帰ろうか?”なんて言われた。これは夢か?
「え、なん…で」
「ちょっとね、高尾くんに用事があるの。今日部活無いんだよね?清志くんに聞いたの」
「無いっすよ」
「…よかったぁ。校門で待っててくれたら嬉しいな」
それだけ言うと先輩はひらりとスカートを靡かせて、調理室に戻って行ってしまった。あまりに圧倒的な出来事過ぎて固まっていれば、代わりに出てきたのは宮地先輩
「高尾、お前なんでいんの?」
「いや、たまたま通りかかっただけっすけど」
「…なんかこの前から美砂がご機嫌なんだけどお前、なんかしたのかよ」
鈴木先輩がご機嫌!?そんなに手繋いだこと嬉しかったのかなぁ!先輩の手握るのすげードキドキしたし、細いし柔らかいし、もういっぱいいっぱいで覚えてないけど!
「オイ、高尾?」
「へ…?あ、はい」
「お前にやにやし過ぎで気持ち悪いぞ」
「いやー!にやけたくもなりますって!」
「…何でも良いけど美砂に何かしたら轢くぞ」
そう言ってぽいっと何かを投げて宮地先輩も調理室に戻っていく。いつの間にか宮地先輩に知られていた。鈴木先輩が言ったんかなーなんて思いながら投げられた物を見れば鈴木先輩と同じカップケーキ。宮地先輩の方が少し不格好だけど。とにかくウキウキしながら教室に帰って、真ちゃんに気持ち悪がられたのは置いといて…いざ、決戦の放課後。校門付近でそわそわしながら待っていれば、綺麗な香りが鼻につく。見なくても分かる、鈴木先輩だ。綺麗な匂いとかどう言う表現だよ!とか我ながらツッコミたくなるけど、先輩はとにかく綺麗で本当にいい匂いだからなー…シャンプー?香水?柔軟剤?一体何の匂いか気になります!なんて思いながら先輩に近寄って笑顔を見せた。すると先輩も点数が付けらんないくらいやばい笑顔を返してくれる。つらい。色んな意味で
「あのね、高尾くん。急に誘ってごめんね」
歩いてる途中に、先輩にそう言われて慌てて“そんなこといいっすよー!”なんていつもの調子で返した。“思わず嬉しすぎです!毎日帰りましょう!”って言いかけたのは内緒だ
「高尾くんに渡したい物があったの」
“はい”なんて、困ったように笑った先輩が差し出したのはミサンガ。突然のプレゼントに受け取れないでいれば“やっぱりいらなかったかな…?”なんて泣きそうな声が聞こえたから、慌てて先輩の手を両手で掴んだ。相変わらず細いし
「嬉しいです!お、俺のために!?」
「あんまり器用じゃないから不格好だけど…」
「そんなことないっす!かわいい!」
オレンジ色を基調としたデザインのミサンガをわがまま言って“つけてください!”と腕を差し出したら、また困ったように笑う鈴木先輩
「腕じゃ邪魔にならない?」
確かに邪魔になるかもしれない。でも先輩につけてほしい!じゃあ足に…とか思ったけど先輩を屈ませるのもな…なんて思っていれば、突然視界から消える鈴木先輩。焦って探せば足元に違和感があった
「せ、せんぱい…?」
「足なら邪魔にならないよね」
そう言って結ばれたミサンガ。足に少し触れる先輩の手がくすぐったくて愛おしいとか思ったけどそれ以上に先輩を服従させてるような気分になって背筋がぞくぞくした。俺、Sだっけー?
「これでよし。ついたよ高尾くん」
しゃがんで見上げる先輩は小動物、はたまた幼女のように愛らしい。つらい。色んな意味で(本日2回目)抱きしめたい衝動に駆られて、俺もしゃがもうとしたとき“何してんだ”と言う聞き覚えのある声。振り返れば怪訝な顔つきの宮地先輩。俺は立っていて鈴木先輩はしゃがんで俺の足を触っている…この状況は…
「高尾、お前怪我でもしたのか?」
心配そうに近づいてくる宮地先輩に“何ともないっすよ!”なんてへらへら笑えば、“じゃあ美砂に何させようとした…”なんてギラギラした目で見てくるからこえー…
「ちょっとね、高尾くんにプレゼントあげただけなんだから清志くん怒んないの!めっ!」
今時“めっ”とか言う人初めて見た。あざとーい!つかかわいー!!!先輩かわいいいい!怒られてる宮地先輩もかわいいとか思ってしまう
「お前、高尾のいる前でそれやめろよ…」
「清志くんが怒るから…」
「あーもー怒んねぇから行くぞ」
自然と引かれる鈴木先輩の腕、さっきまで側にあったのに遠くなった。繋げなかった片手を頭の上にやって2人の後をついて行く。仲睦まじい2人。幼なじみってこう言うもんなんかなぁなんて思いながら歩いていれば別れ道。宮地先輩と鈴木先輩は同じ道で俺だけ違う。この前みたいなら先輩を家まで送ったけど、今日は宮地先輩がいるから必要ない。幼なじみラブなんかない。存在しない、いや、伝説なんだからな!でももしもってことがあったら…なんて思って宮地先輩を見れば“何睨んでんだ轢くぞ”って言われた
「1人で帰るの寂しいよね」
「い、いや男だからへーきへーきっすよ!」
「そうか?じゃあいいな。気をつけて帰れよ」
そう言って宮地先輩は鈴木先輩を連れてすたすたと歩いていってしまった。繋がれた手が当たり前のようで憎らしい。でも憧れでもあった。あんな風になりたいな…なーんてね。無理ってわかってんのにさ。とかふてくされながら2人を見送ると鈴木先輩がこっちを向いて口パクで何かを言う
“た ん じ ょ う び お め で と う ”
その言葉にハッとしてミサンガを見れば何か紙が結んであった。そこには【誕生日おめでとう高尾くん。何が良いかわからず清志くんに相談したらミサンガがいいんじゃないかってことになったから編んでみました。下手くそでごめんね】と、書いてある。それだけなら普通だ。いや嬉しくて絶叫しそうなことがその後に書いてあった【試合を見に行くことがあたしは出来ないから、あたしだと思って連れてってくれたら嬉しいです】つまり、言わば、鈴木先輩の分身を預かったわけで…街中でにやにやして足を眺めて歩いたのは他でもない俺だ。ただの変人だなとか気にしない!幸せすぎた!やっほー!
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