「ほら、真ちゃんあそこ!」
嫌がる真ちゃんをぐいぐい引っ張って物影から指を差した。視線の先にいるのは俺が一目惚れした先輩で宮地先輩と楽しそうに話していた。羨ましい
「はああああ。かわいいなぁ…鈴木先輩…」
「…そんなに話しかけたいのならいつもの調子で話しかければいいのだよ」
「ば、ばか!真ちゃん!そんなこと出来ねーって」
「何故なのだよ」
「…鈴木先輩に軽い子って思われたくない」
そうやって呟けば、真ちゃんに“ばかなのだよ”と呆れたように言われた。鈴木美砂先輩は綺麗で儚くて優しい先輩だ。目立つタイプじゃなさそうだけれど、いつも練習見に来てくれてて、宮地先輩と同じクラスみたいで仲が良くて、とにかくいい匂いがする
「…あの先輩のどこがいいのだよ。一見普通に見えるが」
「ばっか、真ちゃん。世界中の女の子集めたら先輩になるんだよ。凝縮されてんの!」
「その台詞どこかで聞いたのだよ」
「はぁ、本当にかわいい!笑顔が素敵!」
「いつ、どこで惚れたのだよ」
そう言われて、真ちゃんの方を向いた。好きになったのは練習の時タオルを無くして困っていたら、鈴木先輩が近づいてきた
『タオル忘れたの?あたしのタオルで良かったら使って?』
そう言って渡されたクマの柄が入ったタオル。笑う先輩。過ぎ去る先輩からはいい匂いがした。時間が止まった
「そう、あの時から俺は先輩に一目惚れでさぁー!」
「一々叩くな!」
「あ、先輩こっち向いた!」
ふわり、髪が風に揺れて先輩の匂いが届いた。それだけで満たされる俺が居る
「あら?」
「…え!?」
鈴木先輩がこっちを向いたと思ったら、宮地先輩と一緒に近づいてきた。心の準備できてねーって!
「こんにちは。えと、緑間くんに高尾くんだよね。鈴木って言います」
「知っているのだよ。何せ高尾が毎日毎日…」
「うわああああ!真ちゃん!」
きょとんとした先輩は本当にかわいくてしょうがない。つか、先輩と言葉を交わす日が来ようとは…
「あああの、鈴木先輩!」
「はい、高尾くん」
「前はタオル貸して下さってありがとうございました!」
「…高尾、お前何どもってんの?」
宮地先輩がなんか言ってるけれど今はスルー。いつもの調子なんか出ない。先輩を前にすると俺はただの小者だ
「タオル…?あ、クマさんのタオルね!」
“役に立ったかな?”なんて笑う先輩にノックダウン寸前
((クマさんのタオルとかかわいすぎて、ぶふぉ!))
心の中で笑いながら先輩に笑顔を向ければ“良かった”と呟いた。あぁ、優しい先輩だな
「美砂、そろそろ教室行くぞ」
「わかったよ。それじゃあね、高尾くん、緑間くん」
髪が靡いてまた匂いが届く。それを思いっきり吸い込んで肺に入れたら腹いっぱいになった。真ちゃんが隣で複雑そうな顔をしてるけれど気にしないぜ
あぁ、鈴木先輩大好きだっ!
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