食満


夜中の0時過ぎ、隣で寝ている伊作を起こさないようにそっと部屋を出ると、肌を切るような寒さで少し身が竦んだ。よく見れば雪まで吹雪いているから“これはまずい”と思って、一旦部屋へ引き返し、防寒をしてから改めて部屋を出た。今日は年に1度のクリスマスであり、委員会の1年生は一週間前からずっとサンタクロースやクリスマス当日の話で持ちきりだった。本当は中学1年生となればサンタクロースはいないと言うことをとうの昔に理解するはずなんだが、生憎うちの下級生は純粋な子ばかりで疑うことを知らない。だが、そんな子達の希望に応えてやるのも委員長の仕事だと、俺は思っている。手元に抱えたいくつかの包装紙を濡らさないようにして中等部に赴き、まずはじめにやってきた場所は作兵衛のいる3年ろ組の部屋。作兵衛はもう中3だからサンタクロースなんて信じる歳ではないし、プレゼントを用意したとしてもすぐに俺が渡したと理解するだろう。でもそれでもいいのだ。ただこれは俺の自己満足でもあるのだから。寝ている作兵衛の頭をそっと撫でて枕元にプレゼントを置いて部屋を後にする。次に平太のいる1年ろ組に行って同じ様にプレゼントを置いて、しんべヱと喜三太のいるは組も回って帰ろうとした瞬間、目の前に見覚えのある姿が出現した


「あや、留先輩。こんばんわ」

「加藤、お前も団蔵にプレゼントか?」

「えぇ、毎年しているので」


ふんわり笑う姿や肌の色は雪に映えてとても綺麗だが、こんな寒い日にパーカー1枚とはとんだ強者だ


「寒くないのか?」

「さむいですー。まさか吹雪になるなんて思っていなかったんで…」


袖を伸ばして口元を押さえる仕草や、真っ白い息がよけいに寒さを演出する。吹雪を見ながら“これじゃホワイトクリスマスどころじゃないですね”と苦笑いする加藤にそっとマフラーをかけた


「あ…先輩、これ…」

「寒いだろ?」

「でもそれじゃあ留先輩が…」

「俺は平気だから気にするな。生憎お前のプレゼントを用意してなかったからな…そのマフラー、もらってくれ」


笑って言えば、困った顔をしてマフラーに顔を埋めてしまった。真っ赤なマフラー。加藤の髪や白い肌によく合って色合いが一層際立つ


「送っていくから帰るぞ」

「あ、先輩まって…!」


歩き出した瞬間触れられた手、ものすごく冷たくてびっくりしてしまったが、ぎゅっと繋がれた瞬間、一気に熱が触れ合うところに集中していった


「先輩も手が冷たいです」

「お前はもっと冷たいな」

「一緒くらいじゃないですか?」


学年が1つ違うだけなのに手の大きさも細さも全然違う。いや、こいつが細すぎるってのもあるんだけど、長く一緒にいるのに、今まで知らなかった事をまた1つ知った。あのまま手を繋いで高等部へ帰ってきて、加藤の部屋の前


「送ってくださってありがとうございました」

「あぁ」


部屋についた途端に離された手、触れていた熱が無くなって外気にさらされた。何故か名残惜しいと感じる俺がいる。複雑な気持ちで今部屋に帰ろうとしている後輩を見ていると、突然振り向いてこっちをみた


「先輩、留三郎先輩」

「なんだ、どうし…」


話しかけに応答しようとした瞬間、ほんの一瞬だけ頬に暖かい刺激を感じた


「留先輩、めりー…くりすます」


くす、っと笑った加藤の顔はいつものいたずらを仕掛けたときの笑い顔だったが、どこか頬が赤く染まっていた気がする


「めりーくりすます、か…」


もう誰もいないドアに微笑んだ後、ジャージのポケットに手を突っ込んで2年の寮を後にした


end


めりーくりすます!
けまちぇんぱいでくりすますだけの限定拍手でした






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