「なぁ」
小さく丸まっている背中に声をかければ“んだよ”と気怠そうにこっちを向いた。手元には書物。相変わらず本を読むのが好きだなと思いながら近づいて頬に手を当てた
「…なに」
また怠そうな声がする。薄く開いた唇目掛けて飛び込めば、目が見開いた。そしてすこん、と言う間抜けな音と頭痛。頭を本で殴られたとすぐに分かった。しかも角、だ
「てめぇ、何すんだ」
「いや、接吻をね」
「削ぐぞ」
「今日は接吻の日だろう?」
「俺には関係ない」
「はちや弟くんにはするのに?」
「団蔵は目に入れても痛くない。はちは…特別」
その特別が羨ましくて憎らしい。私には手に入らないものだ。どんなにもがいても足掻いても君は捧げてくれないから
「三郎」
不意に呼ばれた名前、ぐっと近づく顔、揺れる髪、緩む唇、染まる頬、触れた指先…全てがゼロコンマの間に行われた
「え…」
「キス、されると思った?」
“まぁ、しないけどね”なんて笑う君が憎らしい。でも愛おしい。近距離で行われる行動がむず痒くて仕方なかった
「いけず、だな」
「性分だよ」
“まぁ、どうしてもって言うならしてやんなくもないよ?”
君がにやりと笑った。そんな愛おしい小悪魔にダイブするまであと少し
end
キスの日大遅刻!
三郎が珍しく振り回されます
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