次屋



さっきまで作兵衛と左門と歩いていたはずなのにいつの間にか両脇に居たはずの2人がいない

((2人揃って迷子になるなんて…))

全く困ったな、なんて思って一旦来た道を引き返して作兵衛と左門を探す。名前を呼ぶと近くの草むらが揺れた


「作兵衛?左門?」


生い茂る草むらを掻き分けて奥をのぞけば、緑の芝生に横たわる藍色の髪が目に入る


「あ…次屋くんかい?」

「加藤先輩…」


だった気がする、確か作兵衛の委員会の先輩で七松先輩と肩を並べる壊し屋だって聞いた。細身で身長だって俺と変わらないくらいで力仕事なんか似合わない見た目なのに、みんなが口々に“加藤先輩はすごい”なんて言うけれど、俺はにわかに信じられない


「ういっす。何してんの?」

「先輩こそ何してるんですか?」

「俺?ちょっと委員会の用事」


体を起こした先輩には葉っぱや木の枝がたくさんついている
近くによって葉っぱを取るのを手伝ってあげれば嬉しそうに笑った。やっぱり笑うと女の子みたいだ。かわいくて綺麗…


「ところで次屋くんはどうしてここにいるんだい?」

「中等部に行く途中に作兵衛と左門が迷子になったんで捜索です」

「…ここ裏山なんだけど」


そう言って苦笑いする先輩
おかしいな、なんで裏山なんだ?来た道を逆戻りしたんだから寮に戻るはずなのに…そうか、先輩も迷子なんだ


「先輩ここ裏山じゃないですよ。学園の敷地内です。もしかして先輩も迷子になったんですか?俺と一緒に帰りましょう」

「(無自覚…)あーそうだね、連れてってもらおうかな」


にっこり笑う先輩は手を差し出してくれて俺はその手を取った。初めてさわったその白い手は細くて強く繋いだら折れそうなほど弱々しい。だけどよく見れば空いている片方の手には大量の丸太を抱えている。しかも全部長くて太い


「先輩、そんなに荷物もって大丈夫なんですか?」

「慣れてるからねー」

「半分俺が持ちますよ」

「え、重いよ?」

「平気です」


子供扱いされるのが嫌で半ば無理矢理荷物を受け取ったものの、物凄い重さで腕が折れるかと思った


「ほら、だから言ったのに」

「…平気です」

「うそつくならもっと分かんないようにしろよ。顔、歪んでるから」


俺の手から丸太をとりあげて軽々と運ぶ先輩は本当に噂通りのすごい人だった


「先輩力持ちなんですね」

「まーねー」


今日何度目かの先輩の笑顔
風で揺れる髪の間から見え隠れする銀色のピアスが目に入った


「先輩、ピアスつけてるんですね」

「あぁ、これか…気になる?」

「はい」

「じゃあ今度開けてやるよ」


そう言って先輩は俺の耳に触れた。さっきまで繋がれてた手はまだ熱を持っていて、触れられている耳も熱い


「じゃあ今度してください」


そう言うと先輩は嬉しそうに“まかせとけ”とまた俺の手を握った。なぜか俺は顔が熱くなった


end


無自覚方向音痴三之助!
好きです好きです!





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