どすん、と言う音が聞こえた。また誰かが私のターコちゃんに落ちてしまったらしい。大方保健委員会の誰かかタカ丸さんが落ちたのだろうと思うけれど、茂みから出て穴を覗いた
「おやまぁ、加藤先輩」
「…綾部くん」
穴の中ではいつも見ないは藍色がゆらゆらと動いている。珍しい大物がかかってしまった
「いってー…なんでこんなとこにまで落とし穴掘ってんだよ!危ないだろ!」
「先輩が落ちるなんて珍しいですね」
「綾部くん、今俺が話してんだけど…」
「加藤先輩はいつも落ちないので、先輩をいつか落とすのが夢でした」
「はぁ…夢ねぇ、そりゃ叶ってよかったねぇ」
なぜか急に呆れた顔でため息をついた先輩に少しむっとしたけれど、本当にあの加藤先輩を自分の掘った穴に落とすことが出来たのはすごい優越感だった
「先輩なんで落ちたんですか?」
「あぁ?委員会で団蔵がいつも世話になってるから三木くんを今度遊びにでも連れて行こうと思って考えてて足元見てなかったんだよ。不覚だったぜ」
「…三木ヱ門と出掛けるんですか?」
「うん、そーだよ。今度の休みにね。そんなことよりスコップ貸して、穴埋めながら出るから」
先輩が笑ってスコップを要求して来たけれど、渡したくなかった。そして先輩と出掛けることのできる三木ヱ門が心底羨ましかった。思えば滝夜叉丸も三木ヱ門も加藤先輩に滝くん、三木くんなんて呼ばれてすごく仲がいい。タカ丸さんに至っては家ぐるみで仲良しだ
((私だけ、いまだに綾部くんと名字呼び…))
「おーい、綾部くん?」
「…嫌です」
「うん?」
「私は滝夜叉丸や三木ヱ門みたく先輩とそんなに仲良しじゃないので貸せません」
そうやって言えば先輩は一瞬目を見開いたけど、すぐにいつもの優しい顔になって地面を割ってその飛沫で穴から出てきた。いつの間にか穴も埋まり、目の前にやって来た先輩は“じゃあどうしたら綾部喜八郎と仲良しになれんのかな?”といたずらっぽく言った
「…先輩は滝夜叉丸や三木ヱ門を名前で呼びますよね」
「あー…だって平と田村なんて他人行儀ってか響きが個人的に好きじゃなかったし、かと言って名前じゃ長いから短縮してるけど…」
「私も名前で呼ばれたいです」
真剣に先輩の目を見て言ったのに加藤先輩は腹を抱えて笑い出した
「んな、真顔で!」
「本気です」
「あはは!…いいよ。名前で呼んだげるよ、喜八郎くん」
呼ばれた名前はいつも色んな人から呼ばれてるはずなのに加藤先輩が言うと妙にくすぐったい
「でもさー俺的には綾部って響きが好きだから綾くんって呼びたいんだけどね」
「それでも良いです」
「…適当すぎ」
先輩に好きだと、響きが好きだと言われるのはすごく嬉しく感じた
「先輩好きです」
「…え?」
「好きだから先輩を好きな分だけ穴掘ります」
「絶対にやめてくれ」
苦笑いの先輩。でも私本気なんです。絶対に次はオトしてみせます
end
この先お兄さんはあやべに罠をいっぱい仕掛けられます。きはちろーくんの間違ったあぷろーちの仕方です
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