落とさないようにしっかりと手に抱えた桃色のリボンが靡く包みに大した意味はない。これからこの物を渡す相手はただ委員会の後輩のお兄さんで、ただそれだけなのにいつも弟だけではなくて高等部1年生の僕にも優しくしてくださるし、委員会が違うにも関わらずお手伝いまでしてくださる素敵な先輩だから、せっかくだから日頃の感謝の意を込めて何かお返しがしたいと思って一生懸命用意した
「先輩、お待たせしました」
「大丈夫。今来たとこだし…三木くんが俺を呼び出すなんてめずらしいね」
待ち合わせの木の下で先輩は僕を見つけるとへらりと笑った。いつも見ている笑顔なのになぜか胸が苦しくなった
「先輩、あの…」
「うん。なぁに?」
あったらすぐに渡そうと思ったのにそれはできなかった。なぜなら先輩の手元には小さな小包が握られていて、それは隣町の有名なお菓子職人が作ったものだったからだ。淡い桜色の包みに映える赤いバラをあしらった包みは流石名店と言えるくらい綺麗で、僕はプレゼントを思わず背後に隠してしまった
((一体誰からもらったんだろう…))
先輩は格好良くて、優しくてしかも運送業の息子であるから強くて、潮江先輩とはまた違った意味で逞しいから隣の女子校でも人気が高い。だから僕を待っている間に誰かから渡されたのかもしれない。先輩は優しいからこう言うのは絶対に断らない。それに隣町の名菓となれば味はお墨付き、例え僕のを渡したとしてもきっと霞んでしまう。あぁ、少しでもあなたの気持ちに残りたいと思ってしたこともないのに見栄を張って手作りなんてしたのにこれじゃ意味がない
((どうしよう…))
呼び出しておいて今更渡さないと言う選択はできない。だけど渡せない、どうしようかと悩んでいたら先輩の顔が目の前にあってびっくりしてしまった
「三木くん、ぼーっとしてたけど大丈夫?」
「は、はい…すいません」
「あ、そーだ!実は俺も今日三木くんに渡したいものがあったんだよね」
はい、と言われて差し出されたのはあの綺麗な小包。“いつも弟がお世話になってるし、頑張ってる三木くんにご褒美です”って渡された
「買ったのでごめんね。本当は作ろうと思ったんだけど兵助や雷蔵にすごい剣幕で止められてさ、三木くん銃好きだって聞いたから銃にしたかったけど学生じゃ買えないしさ…三木くん?」
「うれしいです、ありがとうございます…せんぱい。えと、あの…これ…」
「ん、俺…に?」
「…はい」
渡すタイミングはひどいし、ずっと握りしめてたからラッピングもぐちゃぐちゃになってしまった。そんなどうしようもないチョコレートを先輩は嬉しそうに受け取って、ぎゅっと俺を抱きしめた。甘い香りがした
「これ手作りだよね!?すごい綺麗!」
「あ、そんなことないです…美味しくなかったら捨ててください」
「大丈夫。三木くん作ったんだから美味しいに決まってるっしょ!ありがとうね」
去り際に頭を撫でられてなれてないのと恥ずかしいのでまた顔が熱くなった。小さくなる先輩の背中を見た後もらった小包にはよく見るとカードが添えられていて、潰れて読みにくいが“かわいい田村三木ヱ門くんへ”って書かれていた。この癖のある字は絶対に先輩が書いた。そんな字を見て僕はますます幸せな気分になった
end
みきてぃ!最後の最後までたっきーにしするか悩んだ←
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