「おめでとう」
日誌を書いているときに後ろから名字くんにそう言われた。“おめでとう”はて、今日は何の記念日だっただろうかと頭を悩ませていると“わからないの?”なんてクスクス笑う名字くん。全くもってさっぱりだった
「今日、石丸くん誕生日だよね」
「む。確かにそうであったな」
すっかり忘れていた誕生日。僕も大人になったのだと思っていれば、名字くんが改めて“おめでとう”と笑顔で言った。その笑顔に釣られるように僕も笑う
「他の子は忘れているなんてひどいね」
「いや、そう言えば兄弟から今日学食をご馳走になったな」
思えばあれが誕生日プレゼントだったのかもしれない。何も言わなかったのは恥ずかしかったからなのだろうか。全くもって兄弟らしい
「あたしからもプレゼントあるんだよ」
「何。そんな、申し訳ない」
「いーの、大好きな清多夏くんにあげたいの」
“受け取って?”なんて儚く笑う名字くん、いや、名前くんの笑顔に見とれていれば、顔が近づいてくる。次の瞬間唇に走る衝撃。しばしの沈黙の後、意味を理解した僕は卒倒しそうになる
「な、な…名前くん!」
「なぁに?」
「神聖な校舎でこのようなこと…破廉恥だ!」
「校舎じゃなければいいの?」
「…ふ、不純だ!」
「あたし達付き合ってるよ?」
「う、ぐ…」
「大好きな清多夏くんにあたしのすべてをあげたいの」
そう言って抱き締められて何も言えなくなってしまう。名前くんのことは好いている。だが、風紀委員の僕が風紀を乱すなどあってはならない。どうしたものかと考えていれば“帰ろう?”と言う声がした
「ちょっと清多夏くんをからかっただけ。ごめんね?」
「む。冗談はほどほどにな」
「許してくれるの?」
「ああ」
“さぁ、帰ろう”と準備をして名前くんの手を引けば、“不純異性交友じゃないの?”と言われてしまった。確かに不純かもしれない、だが名前くんと手をつなぎたいと思ったのだ
「た、誕生日くらい構わないだろう。いや、だっただろうか?」
「そ、そんなことないよ!」
「ならば帰ろう」
笑った名前くんの手を強く握って、教室を出た。少し大人になった気がした誕生日だった
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