“桑田くん、次の授業サボっちゃおうか”なんて休み時間にやってきた名前ちゃんが耳元で言うから耳が熱い。“屋上で待ってるね”なんて笑顔でそれだけ伝えて走り去る名前ちゃん。パンツ見えねぇかなってちょっと目を細めたのは俺だけの秘密だ
「名前ちゃん」
「お、来たな桑田怜恩!」
「いや、なんでフルネーム?」
「何となくさ」
“こっちだよ”と名前ちゃんに手を引かれて、やってきた貯水タンクの側、日陰が出来ていて、しかも入り口からは遠くて見つかりにくい。そんな場所に俺を連れて行くとかなんかどきどきしちまう
「なんで俺をサボる相手に選んだんだ?」
「暇そうだから」
「…それだけ?」
「うん」
“あとは桑田くんが好きだからかなー”なんて軽く流したような言い方が聞こえたけど、怜恩くん聞き逃さなかったぜ?
「名前ちゃん、さっきの!」
「え?」
「俺をす…好き、とか」
「好きだよ?」
「あ、そーゆーテンションね、わかったわ」
なんか“好き”って単語1つに舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。俺の好きは友愛じゃねーんだよ。ちくしょう。なんて思っていれば突然の暗転。コンクリートに打ちつけた頭は相当痛い。いや、体も痛い。そして何より俺にまたがってる名前ちゃんの顔がまたイヤラシくて…いや、絶景ですよ。はい
「桑田くん」
「なっなんだよ。つーか何これ」
「あたしとキス、したい?」
「へ?」
「したいんでしょ。キスして唾液でベタベタになって舌を絡ませあうようなキスしたいでしょ?」
「いや、名前さんどうしましたー?」
魅惑的な名前ちゃんに思わず“キスしたい”とも言いかけた。だって願ってもないチャンス。だけどな…
「名前ちゃん、どうしてそんなこと言い出したの?」
普段から悪戯好きで小悪魔みたいな名前ちゃんだけど今日は様子がいつもとちげーんだ。何つーか焦ってる?だからどうしたのか聞いてみれば耳まで真っ赤にした名前ちゃんが“桑田くんと、キスしたかったの…”なんて呟きだした
「なんで?」
「高校にもなってキスしたことないのあたしだけで…だから経験豊富そうな桑田くんに教えて欲しくって…」
「お前それじゃあファーストキスは俺になっちゃうぜ?」
「いいの、いいの!さっきも言ったけどあたし桑田くんが好きだよ。だから…」
俺のことが好きだって!?友愛じゃなくて好きだって!?ますますテンションが上がって、名前ちゃんを抱きしめた。細い腰、甘い匂い、全部が俺を誘ってる
「じゃあ俺がキス、教えてやるよ」
「本当!?」
「ただし俺は練習相手じゃないからな」
「え?」
「か、彼氏として名前ちゃんのそばにいるっつーかこんなのセコいだろうけど前から名前ちゃんが好きだったんだよな俺、だから幸せにするっつーか。付き合ってください」
「桑田、くんっ…」
「返事…いい?」
「…うん」
「じゃあ付き合った記念にキスしてみるか?」
「う、うん…」
名前ちゃんと俺の視線が交わって、徐々に距離が近くなる。早まる鼓動、近づく唇。やばい、名前ちゃん…すき…だ…
「桑田くんと名字くんはここか!」
「い!?」
あと数センチで唇が交わる瞬間、突然開いたドアと委員長の声がした。あとちょっと、あとちょっとでキスがああああああ…
「石丸くんかな」
「多分な」
「名字くんと桑田くんいるのはわかっているのだ!」
「あたし達を探してるみたいだね」
「しー…見つかる」
ぐっと体を抱きしめてできるだけ見えない陰に名前ちゃんを追いやった。2人分の鼓動が聞こえてきて、名前ちゃんの柔らかい胸が当たって、生唾を飲んだ
「む、居ないようだな」
かんかんと階段を降りる足音が聞こえてきて、2人で息を吐いた
「ふぅ…よかったな」
「あたしはばれても良かったよ?」
「不純異性交友だって風紀委員的指導くらうぞ」
「そっかぁ、でも」
“晴れて怜恩くんの彼女になったことを報告したかったな”なんて言う名前ちゃんをそのまま押し倒した
「チャイムなるよ?」
「俺の授業は終わってねーよ」
顔を真っ赤にさせる名前ちゃんの額にキスを落とした
「まずは愛してるの、キスから」
こうして俺達の秘密の授業が始まった
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